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第70話『ベレンヘーナ』
「まず、ギルドとは組合の事だ。商業や工業、銅鉱と、多種多様でな。仕事を斡旋したりする。まぁ、傘下の企業を治める大企業と言えばいいか。パーテ
ィーはその傘下の企業と言う感じだ。ほら、タカミチやアスナが居たサウザンドマスターのパーティー、『紅き翼(アラルブラ)』は『悠久の風』と言うギルドの 傘下だった。過去の大戦でも活躍した英雄達。他にも、幾つかの小規模ギルドがかなりの数存在する。ギルド設立には総括するギルド協会に登録する 必要があってな。魔法製品の発明や、遺跡発掘。他にも、魔物の討伐や貴重な素材と呼ばれる、まぁ簡単に言えば武器やアーティファクトの材料などを 探すのもある。最近は別の世界に行く魔法使いも少なくはない」
エヴァンジェリンの話に、イルゼは首を傾げた。
「別の世界って、魔法世界と現実世界とデジタルワールドと魔法生物世界以外にもあるの?」
その言葉に、エヴァンジェリンは「ある」と答えた。
「元々、魔法世界の候補となる世界は五つあった。その中で、立地、環境、世界の強度やマナの濃さなどから最も優れた世界。『ムンドゥス・マギクス』、
つまり我々が『魔法界(マギアニタース)』と呼んでいる世界だが、他にも…現在は『闘争の世界』と呼ばれた、力を求める魔法使いやそれに類する存在が 集っている『シャベリア』。シャベリアは、環境や世界の強度、マナの濃度も申し分無かったが、世界自体が狭すぎた。そして、寒暖の差が激しく、人が生 活するには多少困難な『黄昏の世界・ウィストーリア』。人に似た獣が存在し、独自の社会が形成されていた『悠久の世界・インカムレイナム』。管理不可 能な程広大過ぎ、魔物も、魔法生物世界程ではないにしても凄まじい種が存在する『夢幻の世界・カトルオックス』そして、イルゼの言ったこの世界や魔 法世界の魔法生物を解き放った『魔法生物の世界・アクサハム』。他にも、魔界や霊界、天界などもあるが…それは今は関係無いと思ってくれ」
エヴァンジェリンの話に、イルゼと木乃香は呆然としていた。
「せ、世界ってそんなにあったのか!?」
イルゼが叫ぶと、エヴァンジェリンは悪戯っぽく笑った。
「ああ、未だ、発見されていないだけで、他にもたくさんの人間がある。そこには、私達と同じ様な人間が居たり、インカムレイナムの様な獣人が居たり、
他にもたくさん。今、若い魔法使いの中で、別の世界に行く動きがある。現在、ムンドゥス・マギクスを除く、シャベリア、ウィストーリア、カトルオックス、イ ンカムレイナムは互いに繋がりを持とうとしている。お互いの世界を管理する為に力を合わせているそうだ。その援助や、そっちに移住する魔法使いが 居るらしい」
エヴァンジェリンの話に、イルゼと木乃香は何度も反芻して理解しようと努力したが、あまりにも壮大な話に、処理が追い付かない状態だった。
「大丈夫か?二人とも」
エヴァンジェリンが苦笑しながら聞くと、木乃香とイルゼは「なんとかぁ」と頭から煙を出しながら言った。
「さて、難しい話はここまでで、こっからは修行についての話も触れるぞ。木乃香もイルゼも、戦闘スタイルを決めようと思う」
「戦闘スタイル?」
エヴァンジェリンの言葉に、イルゼが首を捻った。
「そうだ。まぁ、木乃香には前に話したが、将来的な戦闘スタイルは、早い内に決めた方がいいからな」
「でもさ、戦闘スタイルってどんなのがあるんだ?」
イルゼが聞くと、エヴァンジェリンがプリントの一枚を指差した。
底には、多種多様な装備の魔法使いの写真があった。
「まず、大まかに二つに分ける。魔法使いと魔法戦士だ。木乃香は、このまま魔法使いを目指すのがいいだろうし、イルゼは魔法戦士…と言うよりも戦
士を目指す。ここまではいいな?」
エヴァンジェリンが言うと、木乃香とイルゼは頷いた。
「まずは魔法使いの種類だ。魔法使い、そうは言ってもかなりの種類がある。錬金術師、癒術師、結界師、陰陽師、呪術師、他にも火魔、氷魔、雷魔な
どの、自身の得意とする魔法のみを極めて魔法使いも居る。だが、殆どの魔法使いはそう言った専門職には就かない。大概は色々なのに手を伸ばして 極められないままに生涯を終える。だが、木乃香の場合は他の者とは訳が違う。全てに手を伸ばして全てを極められる。故に、木乃香は全てを扱う賢者 タイプ、つまりはメイガスを目指して貰う。時間もある事だしな。どれかに偏って属性が後天的に固定されては意味が無い。いいか?」
エヴァンジェリンが聞くと、木乃香は頷いた。
「うん。なんか大変そうやけど…うち、頑張るえ」
微笑みながら、木乃香は力強く言った。
その言葉に満足そうに微笑むと、エヴァンジェリンはイルゼに顔を向けた。
「次にイルゼだ。最初は、剣や格闘などを考えていたんだが、あそこまでの銃の腕は使わない手は無いだろう…が、前衛に出るイルゼが遠距離攻撃だ
けでは不都合があるだろう。だから、幾つかの武器を使ってみて、使い易い武装を選択しろ。刀、剣、大剣、絡繰剣、双剣、短剣、斧、鎌、拳、トンファ ー、鎖、槌などな。まぁ、弓や投擲タイプは双銃があるからいいだろう。今、近右衛門に色々と集めて貰っている。来週には来るだろうからな、もう夏休み にも入っている頃だし、色々と試してみよう。一番シックリ来る武器と双銃の修行をこれからスパークの修行と平行して行う予定だ」
エヴァンジェリンの言葉に、イルゼはニッと笑った。
「楽しみだなぁ、いよいよスパークの修行も始まるのか!」
嬉しそうに言うイルゼに、木乃香はニコニコしながら言った。
「イルゼ嬉しそうやね」
「だってよぉ、ようやく思いっきり体が動かせる修行に入れるんだぜ?楽しみに決まってんじゃん!」
ニシシと笑いながら言う、イルゼにエヴァンジェリンも苦笑した。
「まぁ、一日中座禅だったからな。と言っても、スパークの修行は一筋縄ではいかない。自分の感情を完全に制御し、自分の原初を理解する事から始ま
るからな。何が出てくるかも判らん」
エヴァンジェリンが言うと、イルゼが聞いた。
「ばあちゃん、修行は具体的にどんな事するんだ?」
「ああ、基本的には戦闘訓練だ」
イルゼの問いかけに、エヴァンジェリンは答えた。
そのエヴァンジェリンの答えに、木乃香は首を傾げた。
「え?でも、スパークは心霊魔術に近いんやなかった?どうして戦闘訓練なん?」
すると、エヴァンジェリンはニッと笑った。
「いいか?精神の制御は、座禅で自身に問い掛け、世界に問い掛け、悟りを開くのとは訳が違う。心霊魔術はそれよりも業が深い技だ。自身の殺意、敵
意、衝動、本能、あらゆる感情を支配する。それには、戦闘訓練が一番だ。戦いに於いて、何の感情も動かない者はいない。最初の修行は、自分の意 思で、相手に敵意を持つ事が出来る様になる事が目標だ」
「敵意…?」
エヴァンジェリンの言葉に、イルゼは当惑した。
「心の支配は、並大抵の覚悟では出来ん。出来るか…?イルゼ」
エヴァンジェリンの感情の篭らない視線を受け、イルゼは、息を呑んだ。
出来ない、そう答えてもエヴァンジェリンは何も言わないだろう。
ただ、誰の事も考えず、自身の手で、道を決めろ。
そう言っているのだ。
イルゼは目を閉じて深く深呼吸をした。
そして、真っ直ぐにエヴァンジェリンの瞳を見て答えた。
「頑張る…いや、やる!俺は必ずスパークを手にする!だから、教えてくれ!ばあちゃん!」
その、イルゼの言葉に、エヴァンジェリンはフッと満足気な笑みを浮べた。
「そうか。ならば、覚悟しろ。これからの修行は少し辛くなるぞ。木乃香も、これから本格的な魔法の修行に入る」
「おう!」
「はい!」
二人の元気の良い返事に、エヴァンジェリンは満足気に微笑み、夕食の準備の為にキッチンに向かって行った。
それから、瞬く間に日が過ぎた。
ミス研では、劇のビデオの鑑賞会や、夏休みの計画を立て、クラスでも、イルゼと木乃香は遊ぶ約束を取り付けた。
そして、いよいよ夏休みに入った。
そして、夏休みに入った7月23日の日曜日、イルゼ達は修行場に居た。
イルゼの両手には、白金に輝く二丁一対の銃。
近右衛門が用意した魔銃だ。
特殊魔法金属『グラビタイト』と呼ばれる、重力制御の特性を持つ金属と、『ルーンメタル』と呼ばれる、軽く硬度、性能に優れた魔法金属、そして最高の
エーテル反応率を持つ『ブラックロック』によって作られている。
グラビタイトはエーテルに反応し、体積と重量を変化させる。
この特性により、イルゼの体に合った大きさに変化するのだ。
そして、魔力をイルゼが篭められないのを解決する為、途轍もなく高級な魔法金属のブラックロックを使った。
ブラックロックは、エーテルの状態の魔力を取り込む性質がある。
それを、双銃のエネルギーカートリッジに活用したのだ。
そして、グラビタイト、ブラックロック以外の部位にルーンメタルを使う事で、軽量且つ頑強な銃として完成したのだ。
イルゼの周りには、木乃香、エヴァンジェリン、近右衛門、さよ、タカミチ、アスナ、レオルモンが居る。
近右衛門の手には、イルゼが持っている双銃の入っていた木箱がある。
イルゼが双銃を皆の居ない方向に構えるのを見て、近右衛門が口を開いた。
「その双銃には名は無い。元々、双銃を使う魔法使いは皆無に等しい。だから、完全にオーダーメイドだ。名は、自分でつけるといい」
近右衛門は幻術を解いて折り、喋り方も見た目とチグハグな事から、若い姿の時は老人口調を完全に止めている。
未だに、イルゼは僅かに違和感を拭えないが、それでも確りと頷き、双銃を見つめた。
ルーンメタルの白金の輝きと、ブラックロックからの魔力を受けてオレンジ色の魔力光を放つグラビタイトの輝き、双銃を持った状態で近接戦闘も行える
様に、銃身の先端の下から、弧を描いてオレンジ色の魔力光の刃が形成される様にもなっている。
そして、魔力の刃で手を傷つけないように、グリップとトリガーを覆うように、同時に魔力光の刃を固定する為に、グラビタイトとルーンメタルでグリップの
底から銃身の真ん中で繋がっている。
イルゼはそれを眺めながら何度も構え、名前を考えた。
そして、不意に頭に浮かんだ名を口にした。
「ベレン…ヘーナ」
「ベレンヘーナ?確か…スペイン語でナスだっけ?」
イルゼの言葉に、タカミチが首を捻った。
「なんでナス?」
アスナは訳が判らないと言う表情を浮かべた。
「イルゼ、なんでベレンヘーナなん?」
木乃香が聞くと、イルゼは「え?」と目を丸くした。
「ベレンヘーナ?」
まるで、初耳の様な反応で、イルゼは聞き返した。
その事に、エヴァンジェリンは首を捻った。
「今、お前が言ったんじゃないか。ベレンヘーナと」
「俺が…?」
イルゼが心底不思議そうに聞き返すので、エヴァンジェリン達は眉を顰めた。
そして、イルゼは両手の双銃を見て、眉間に皺を寄せた。
「また…だ」
「また?」
エヴァンジェリンが聞くと、イルゼは頷いた。
「射撃大会の時も、頭の中に変な情報が流れて来て、その通りに銃を使ったら、優勝した。でも、俺は生まれてから銃を習った事なんか無い。一体…」
イルゼが困惑した様な表情を浮べると、レオルモンが口を開いた。
「イルゼ、それは恐らく前世の記憶ではないだろうか」
「前世!?」
レオルモンの言葉に、隣に立っていたさよが目を丸くした。
「どういう事だ?レオルモン」
エヴァンジェリンが聞くと、レオルモンが口を開いた。
「我々、デジタルモンスターに通常の死は、ロードと言う、要は他のデジモンにデータを喰われる以外の死は無い。死んだデジモンはデジタマに戻り、新た
な生を受けて幼年期として生まれ変わる。私の友、オーガモンの様にな」
その言葉に、近右衛門は口を開いた。
「なるほどねぇ。と言う事は、デジモンは前世の記憶を引き継いで転生出来るって事かい?」
近右衛門が聞くと、レオルモンは首を振った。
「いいや、通常は在り得ない。転生する時に、我々は完全に初期化される。だが、例外もある。例えば、パートナーを持つデジモンは転生してもデジヴァ
イスによって記憶の継承が為されると言われている。それ以外にも、生前に強い魂を持ったデジモンは、完全に初期化されず、記憶の一部を継承する 事があると言われている。もしかすれば、イルゼは生まれる前に、双銃を使う強きデジモンだったのかもしれん。双銃を使うデジモンと言えば、リボルモ ンなどが居るが、私も全てのデジモンを知る訳ではないからな。だが、恐らくは生前の双銃の技術が継承されたのではないかと思う」
レオルモンの言葉に、イルゼは自分の双銃と両手を見た。
「俺の…生まれる前?」
「確かに、はじまりの街では新たな魂が生まれる事もあるが、死後に生まれ変わったデジモンも生まれる」
レオルモンの言葉に、エヴァンジェリンは信じられない気持ちだった。
「死後も生まれ変わるとは、中々に恐れ入るな」
そして、近右衛門が口を開いた。
「もしかしたら、その生前に使っていた銃がベレンヘーナと言うのかもしれないね。成程、前世からの贈り物か」
「贈り物?」
近右衛門の言葉に、イルゼは当惑の表情を浮べた。
「そうだよ。イルゼは、生まれる前もきっと頑張り屋だったんじゃないかな?そして、生前も頑張った恩恵が、イルゼに力を与えてくれたんだよ。…不安な
のは分かるよ。でも、その力はきっと君を裏切らない。だから、安心しなさい」
近右衛門は、右手をイルゼの頭に乗せて優しく言った。
そして、イルゼはどこか気持ちが軽くなった気がした。
そして、ニッと笑みを浮べて「おう!」と言った。
「それじゃあ、『ベレンヘーナ』の試し撃ちをしてみろ」
エヴァンジェリンの言葉に、イルゼは頷き、六人と一匹から離れ、双銃を虚空に向けた。
「いくぜ!」
「あぁ、待った待った。色々と説明しないと…」
双銃を構えたイルゼに近右衛門が声を掛けたが、その前にイルゼは双銃のトリガーを引いた。
だが、銃はプスンと音を立てて煙を吐くだけだった。
「あ、あれ?」
イルゼは当惑したように双銃を見た。
そして、近右衛門が口を開いた。
「まずは色々と説明するからよく聞いて」
近右衛門に言われ、イルゼは近右衛門に近づいた。
「それじゃあ、説明するよ。まずは、双銃の一度のリロード、つまりエネルギーの充填による弾丸の装填数は8発ずつの計16発。双銃の魔力弾丸は発射
と同時にエネルギーが霧散していくから、遠く離れれば離れる程威力が落ちる。射程距離は大体半径50m、でも全弾一斉開放、つまりはバーストショット って言うのがあるんだけど、それなら距離は最大で200mにまで伸びる。と言っても、威力は殆ど無くなっちゃうんだけどね。リロードは、双銃の魔法光の 刃を重ねて、少し待てば良いんだ。リロードが完了すると銃身の先のパーツが光る。ちなみに、弾丸0の状態だと、一からエーテルから魔力に変換をしな くちゃいけない。一発分でもあれば、呼び水の様に効率良く魔力に変換出来るから、完全に弾丸を打ち尽くす前にリロードする様に心掛けると良いよ。最 後に、この双銃に使われているブラックロックは、学んだ」
「学ぶ?」
近右衛門の言葉に、イルゼは首を傾げた。
「そう、簡単に言うと、双銃を使えば使う程、ブラックロックがエーテルから変換出来る魔力量を上げるんだ。つまり、使えば使う程、その銃は強くなるんだ
よ。それに、イルゼが成長すれば、それにあわせて双銃も大きくなる。そして、イルゼがマナを吸収出来る量を増やせば、その分吸収出来る魔力も当然 増える。まさしく、イルゼと共に成長する双銃なんだ。使い続ければこれ以上無い程強力な武器になる筈さ。ちょっと高くて一般向けじゃないんだけどね」
最後に悪戯っぽく笑うと、近右衛門が言った。
「俺と一緒に…成長する銃。凄え…凄えよじいちゃん!!ありがとう!!」
イルゼは感動し、瞳を潤ませながら礼を言った。
それに、近右衛門は心底嬉しげに微笑んだ。
「喜んで貰えたなら本望だよ。さぁ、リロードしてみて」
「おう!」
イルゼは近右衛門に返事をすると、腕を交差させて双銃の刃を重ねた。
すると、双銃の周りで魔力がオレンジ色の光となって取り込まれていくのを感じた。
そして、その感覚が、イルゼにあの夜の感覚を呼び覚ました。
――これだ…この感覚だ!!
そして、イルゼはレオルモンの言葉を胸に抱き、一切の躊躇いも無く、知らない記憶の知らない教えに身を委ねた。
「『気を沈ませろ』…。『波打つ感情を押さえつけろ』…」
そして、スゥーッと息を静かに、大きく吸い込み、再び静かに吐いた。
そして、鋭く視線を前方に向けた。
「フッ――!!」
両手の双銃から、同時に弾丸が放たれた。
威力は小さく、徐々に更に小さくなっていく。
そして、再びイルゼは双銃をリロードし、トリガーを引いた。
だが、直ぐには離さない。
双銃は、トリガーを離す事で弾丸を放つ仕組みになっている。
そして、トリガーを引いたままでいると、双銃鈴の様な音色を奏でた。
そして、トリガーを離した瞬間、体重の軽いイルゼの体は背後に弾かれ、一発一発の弾丸とは比べ物にならない大きさの弾丸が発射され、徐々に小さく
なりながらも、先程放った弾丸の消え去った位置を遥かに越えて行った。
そして、弾かれたイルゼの体を、エヴァンジェリンが抱き止めると、エヴァンジェリンは感心した様にイルゼの双銃を見た。
「弾丸は、サギタ・マギカと同等か。それも、スピードに関して言えばサギタ・マギカ以上…。それも、勝手に収束させる事も出来るとは…。近右衛門、お
前、とんでもない代物を持って来たな」
エヴァンジェリンは心底愉快そうに近右衛門に言った。
それに、近右衛門も悪戯っぽく笑い返した。
「フフフ、今まで使い道が貯金が漸く役に立ったよ。色々な謝礼金やらお礼やら給料やら報酬やらを溜め続けて来たからね。これでもまだまだ余ってるん
だよ」
近右衛門の言葉に、エヴァンジェリンはクククと笑った。
「そうかそうか、他にも武器を用意して来たんだろう?」
「勿論さ。とにかく色んな種類の武器を特注で作ったんだ。使わなくても、何時か役に立つかもしれないしね」
近右衛門の言葉に、エヴァンジェリンは心底おかしそうに腹を抱えた。
「ハッハッハッハッハッハ!!!爺馬鹿もそこまでいけば大したものだ!!」
「フッフッフ!!エヴァンジェリンには負けるさ。」
「「ハッハッハッハッハッハ」」
エヴァンジェリンと近右衛門が二人で高笑いするのを、イルゼ達はどうしていいか判らなかった。
そして、さよが近右衛門の脇腹を突いた。
「ギョホッ!?」
近右衛門は変な声を上げて飛退いた。
「あんまり馬鹿みたいに笑わないの!」
さよの言葉に、近右衛門はシュンとなって頭を下げた。
「ごめんなさい…」
そして、その様子にエヴァンジェリンはおかしそうに笑っていると、さよはエヴァンジェリンも睨み付けた。
「エヴァも!貴女はイルゼ君と木乃香ちゃんの保護者なのよ!それなのに、目の前で馬鹿笑いして、そう言う姿を見せていると、子供に対して威厳を持
てなくなるわよ?」
さよに叱られ、エヴァンジェリンもシュンとなった。
「で、でも…」
「でもじゃない!」
エヴァンジェリンの言い訳は、さよの一言でバッサリを切り捨てられた。
「ごめんなさい…」
そして、そんな二人を見ていて、木乃香とイルゼは何とも言えない気持ちになった。
そして、近右衛門が口を開いた。
「さ、さて…。イルゼ、まずは色々な武器をそれぞれ試してみてくれるかい?」
「お、おう…」
イルゼは顔を引き攣らせながら返事をすると、近くに置かれた長い机の上にある多種多様な武器を眺めた。
――ん〜、どうすっかな…。
イルゼは迷いながら、一対の双剣を手に取った。
「『無式・白魚』か、最初はコレを使ってみるか」
そう言うと、イルゼは一対の緑色の通常の刀の半分程度の長さの片刃の双剣を手に取った。
すると、近右衛門が説明してくれた。
「いいかな?無式と書かれた武装は、何らかの特性を持つ素材と合成出来るんだ。と言っても、専門の鍛冶師に頼まないといけないけどね。双剣の無
式・白魚。これからは、無式は言わずに白魚とかの後ろの名前だけで言うけど、双銃に使ったブラックロックは中々手に入らなくてね。正規のルートだと お金が在っても中々手に入らないんだ。だけど、他の武装も間違いなく五段階ランクで言えばランクMAXのレア武器って感じなんだよ。白魚はルーンメタ ル製で、軽く切れ味も抜群だ」
近右衛門の説明を受けて、イルゼは「へぇ」と言いながら軽く振ってみた。
「本当に軽いな。ヨッ!ハッ!フッ!」
右手の剣を横に薙ぎ、左手の剣を斜めに滑らせ、右手の剣を上から下に一気に振り落とす。
その軌跡は白銀の帯となり、例え様もなく美しかった。
「イルゼ、これを切ってみろ」
双剣の感覚を馴染ませる様に振るうイルゼに、エヴァンジェリンが何時の間にか用意した土人形を指差した。
「オートマタではないが、切れ味を見るにはいいだろう」
「おう!」
エヴァンジェリンの言葉に返事をして、イルゼは右腕を後ろに逸らせ、力を溜めると、一気に切り裂いた。
すると、土人形はいとも容易く切り裂かれた。
「すげえ…」
まるでゼリーを切ったかの様な感触に、イルゼは驚いた。
「これが…白魚」
イルゼが感動して白魚を見ると、近右衛門が口を開いた。
「気に入ったかい?」
「ああ、凄げえよ。他の武器も試していい?」
興奮した様に、イルゼは近右衛門に聞いた。
それに、近右衛門は笑顔で頷いた。
そして、イルゼは他の武器を選びに向かった。
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