第69話『転機』



デジタルワールドが東の大陸。
『WWW大陸』。
WWW、つまり『World Wide Web』は、1990年11月13日に欧州原子核研究機構 (CERN) のティム・バーナーズ=リーの、彼が1989年の3月に執筆した
「Information Management: A Proposal」とENQUIREを参照しつつさらに進んだ情報管理システムを描き、1990年11月12日に、World Wide Web をより具
体化した提案書 "WorldWideWeb: Proposal for a HyperText Project" を発表し、実装したシステムの名称である。
元々、それ以前には全く違う呼び名が付けられていた。
デジタルワールドが、未だアカシックレコードと呼ばれる…否、アカシックレコードと言う概念すら生まれる前にも、名は違っていた。
それを知る者は、一握りに満たない。
何故なら、デジタルワールドと、現実世界の時間の流れは違う。
そして、デジモンの寿命は、本来は現実世界での13日が限界なのである。
デジモンは輪廻転生を繰り返す。
死ねば再びデジタマに還り、新たな生を得る事が出来る。
例外もあるが、転生したデジモンは記憶を継承する事は稀である。
パートナーを持ち、デジヴァイスの加護を受けるデジモンや、寿命が本来のデジモンの枠から外れてしまったデジモン以外のデジモンで、記憶を継承する
事は万に一つの可能性しか無いのである。
故に、デジタルワールドの過去を知るデジモンは少なく、調べるにも、デジタルワールドの過去を記した文献は数が少ない。
ある者は、ただ『世界』と呼び、ある者は『九つの世界』と呼んだ。
時代は動き、その度に姿を変える、世界の隣人。
デジタルと言う言葉が生まれる前は違った呼び名もあった。
デジモンの姿も、時代が変わる度、世界の影響を受けて変化して来た。
そして、大陸の最北端の巨大神殿。
北に位置する神の森に最も近い陸にあり、神の森への唯一の入口を守護する神殿。
『ヴァルハラ神殿』。
北欧神話の主神の居城の名を冠するこの神殿の奥深くに、巨大な人影らしき存在が数人、円卓を囲っている。
その中の一体のデジモンが、両手を握り締め、卓を叩いた。

「一体…どうなっているのだ!!」

「スレイプモン…気持ちは判るが落ち着け!」

紅き甲冑の馬の様な姿をした、ロイヤルナイツが一人、スレイプモンの苛立ちを抑えるように、暗黒の甲冑を着た、一見すればウイルス種にも見えそう
だが、列記としたワクチン種の聖騎士型デジモンである、クレニアムモンが言った。

「だが!!インペリアルドラモンは戻らず、マグナモンだけではなく、デュークモンまでもが行方不明になったのだぞ!!アルファースブイドラモンも四聖
獣の下に赴いたまま帰って来ない。デュナスモンとロードナイトモン、あの二体も何時もの様に定期会議にも出席しない!!元より、そこまで結束がある
とは言えなかったが…事、この事態に於いて尚も協調性を持てないと言うのか!?それでもロイヤルナイツなのか!?」

嘆く様に叫ぶスレイプモンに、クレニアムモンは困った様に隣のオメガモンに視線を向けると、『俺に振るな!!』と視線で返されてしまった。

それに、『竜帝・エグザモン』が口を開いた。

「下らんな。愚痴を聞きに来た訳ではない。私は戻らせてもらう!」

「おい、エグザモン!」

サッサと出て行こうとするエグザモンに、クレニアムモンが声を掛けるが、エグザモンは無視して出て行ってしまった。

「全く、今は少しでも結束を強めなければならんと言うのに…」

その様子に、スレイプモンは拗ねた様に言った。

「とにかくだ。例のはじまりの街の襲撃事件から起こった数々の事件。フォルダ大陸やこの地、WWW大陸でも、行方不明になったデジモンの数は既に
把握仕切れない程だ。例の…再び蘇った魔王軍の動向も気にしなければならない。調査に行っていたデュークモンは…最悪、既に亡き者として考えね
ばならんかもしれん…」

オメガモンの言葉に、スレイプモンは激昂して叫んだ。

「貴様!!デュークモン程の騎士が魔王風情に遅れを取ると言うのか!!」

その言葉に、ドゥフトモンが口を開いた。

「判りゃしやせんぜ?なんせ、あのデュークモンだ。昔、暴食や色欲の奴ともつるんでたじゃねえか。もしかしたら、寝返ったのかもしれんぜ?」

「ふ、ふざけるな!!ベ、ベルゼブモンもリリスモンも魔王の位を冠してはいたが、それでも弱き者には手を出さぬ誇り高きデジモンだったのだ!!な、
何があったのかは判らん…だが!!デュークモンがわ、私達を裏切る等…、そんな馬鹿な事があるか!!」

ドゥフトモンの言葉に、怒り心頭となって呂律が回らなくなったスレイプモンは、怒鳴り声を上げると、肩で息をした。

「ダッハッハッハッハ!!そういや、お前さん、リリスモンとオファニモンを仲直りさせたいとか暴食やデュークモンの野郎と話してたな。おいおい、裏切り
候補生がもう一匹居たわけだ!」

「そこまでにしておけ!」

ドゥフトモンが意地の悪い笑みを浮べながら言うのを遮ったのは、神殿に入って来たアルファースブイドラモンだった。

「アルファースブイドラモン!無事だったか!」

スレイプモンはアルファースブイドラモンの帰還に、ドゥフトモンの言葉を無視して、喜色を浮べた。

「ああ、遅くなった。実は、最初にスーツェーモンの居る暗黒大陸の北にある『グレンマウンテン』に行って来たのだが、そこでインペリアルドラモンに会っ
てな」

「インペリアルドラモンに!?」

アルファースブイドラモンの言葉に、オメガモンは驚いた様に聞き返した。
そして、あまりの事にドゥフトモンも、アルファースブイドラモンの話に耳を傾けた。

「インペリアルドラモンは何と?」

「ああ、彼が言うには、現在の異変は現実世界と関係があるらしい」

「げ、現実世界だと!?」

アルファースブイドラモンの言葉に、クレニアムモンも驚愕の声を上げた。

「して、インペリアルドラモンはどうするべきと?」

スレイプモンが聞くと、アルファースブイドラモンは答えた。

「インペリアルドラモンは直々に現実世界を偵察に行かれた」

「な!?インペリアルドラモンが自らだと!?」

余りの事実に、ドゥフトモンは呆然とした。

「それと、幾つかの情報を頂いた」

「情報?」

アルファースブイドラモンの言葉に、オメガモンが聞いた。

「ああ、重要なのから言うからよく、聞いてくれ」

アルファースブイドラモンが言うと、スレイプモン、オメガモン、クレニアムモン、ドゥフトモンは頷いた。
それを確認すると、アルファースブイドラモンは口を開いた。

「まずは、現在の魔王軍の動きだが、…悪い報せと、凄く悪い報せと、最悪の報せ…どれから聞きたい?」

アルファースブイドラモンは、突然苦々しげに言った。

「?巫山戯る必要はあるまい。早く報告してくれ」

アルファースブイドラモンの変な言い方に、クレニアムモンは怪訝な顔をして言った。

「判った…。まず、最悪な報せから行こう。デュークモンは墜ちた。嫉妬と憤怒に同時に襲われ…それを目撃したデジモンによれば、凄まじい戦闘だった
らしい」

「ッ―――!馬鹿な!?う、嘘だぁぁ!!!」

アルファースブイドラモンの報告に、スレイプモンは半狂乱になりながら叫んだ。

「巫山戯るな!!嘘を付くな!!デュークモン程の騎士が、そう容易く敗北する筈が無い!!」

スレイプモンの叫びに、アルファースブイドラモンは口を開いた。

「それが、凄く悪い報せだ…。連中、何故か途轍もない力を手に入れたらい。インペリアルドラモンからの情報だから確かだろう…。そして、相手が二体
だった事で、さしものデュークモンも…」

「そ、そんな…」

アルファースブイドラモンの報告に、スレイプモンは愕然としながら後退した。

「そ…それじゃあ、本当にデュークモンは…」

「残念だが…。最後に、悪い報せが…、ベルゼブモンとリリスモンが魔王軍に参加したそうだ」

その報告に、スレイプモンは殺気を撒き散らしながら、聖弩ムスペルヘイムをアルファースブイドラモンに向けた。

「いい加減にしろ…。貴様も知っている筈だぞ!!あの二人は…!!あの二人の最後は!!」

スレイプモンは遂に涙を流しながら叫んだ。
ロイヤルナイツの中でも、一際繋がりを大事にし、デジモンの誕生を見守る優しき聖騎士は、嘗ての友の死を思い出し、激昂した。
それを理解しているクレニアムモンとオメガモンはアルファースブイドラモンに視線を向けた。
そして、アルファースブイドラモンも『判っている』と視線を返した。

「だが、事実だ。あのベルゼブモンとリリスモンなのかは判らない。だが、少し気になる事がある」

「気になる事?」

アルファースブイドラモンの言葉に、クレニアムモンが聞き返した。

「はじまりの街襲撃の後、ファイル島を一時期凄まじい量の魔王軍が攻めた事があっただろ?」

アルファースブイドラモンが言うと、オメガモンとクレニアムモンは頷いた。

「確か、我々が到着した時は、既にヴァンデモンが殆どを始末していたがな。それがどうした?」

「その時、丁度フリーズアイランドのアイスサンクチュアリに住む一体のエンジェウーモンが姿を消したらしい」

クレニアムモンが言うと、アルファースブイドラモンが言った。
その言葉に、オメガモンは「まさか…」と、口を開いた。

「では、魔王軍に入ったのは…」

「ああ、恐らくは、堕ちたのだろう…。ベルゼブモンも、我等が知る彼奴かは判らん」

「別人だ!!」

アルファースブイドラモンの言葉に、スレイプモンは断言した。
それに、賛同も否定もせず、クレニアムモンが口を開いた。

「とにかく、インペリアルドラモンは我々に何か指示を出したのか?」

「ああ、インペリアルドラモンは、現実世界への干渉は合図があるまでは決してするなとの事だ。そして、我々は今後は各地に散らばり、各大陸を守護せ
よ、と」

アルファースブイドラモンの言葉に、オメガモンが怪訝な顔をした。

「待て、魔王軍はどうするんだ?」

「魔王軍の動向は、デュナスモン、ロードナイトモンが既に行っているらしい。インペリアルドラモンの指示でな」

「……了解した。それでは、エグザモンには私が報告しよう。各自、各大陸に分散!インペリアルドラモンの指示あるまで、デジモン達の守護を。クレニア
ムモン、お前はここに残り、イグドラシルの守護を続けてくれ」

オメガモンが指示を飛ばし、アルファースブイドラモンとクレニアムモンは確りと頷き、ドゥフトモンも「おう」とだけ言うと、サッサと退出してしまった。
そして、スレイプモンは何処か納得いかなげな表情で頷いた。
それを見て、クレニアムモンは釘を刺した。

「間違っても、短慮な行動は控えるのだぞ…」

「判っている」

そう言うと、スレイプモンは去って行った。

「雲行きが…怪しくなってきたな。…デュークモン……」

外に出て、クレニアムモンは憂いを秘めた声で天を仰いだ。






ある日曜日の昼下がり、イルゼ達は朝倉が持ってきた写真や、エヴァンジェリンの撮った写真を整理していた。
それは、麻帆良祭での写真だ。
イルゼは一枚を手に撮って言った。

「おっ!これパレードのだぜ!へぇ、よく撮れてんなぁ」

イルゼの言葉に、エヴァンジェリンと木乃香は「どれどれ?」と言いながら覗き込んだ。
そこには、銃型の乗り物の上に足場が在り、そこに立って手を振るイルゼと木乃香、恥ずかしそうにしながらも笑顔を浮べるフェイ、それに、柵から乗り
出してハシャグイルゼを慌てて引き戻そうとしているエヴァンジェリンの写真等が沢山あった。

「あの時は冷や冷やしたぞ」

エヴァンジェリンは呆れた様に溜息を吐いて言った。

「へ、へへ…ごめん」

「いいさ。さぁ、ちゃっちゃとアルバムに納めていかないとな。ちゃんと種類毎に纏めるんだぞ。おお!これは木乃香の赤頭巾じゃないか!うむうむ、改め
て見ても可愛いぞ!」

「あぁ!これ、これってイルゼが射撃大会で優勝した時の写真や!」

「え?マジで!?ばあちゃん写真撮ってなかったんじゃなかったっけ?」

「す、すまん…。観るのに夢中になってしまって…」

「これ…朝倉が持ってきた写真や!」

「朝倉も居たのか…ってか!神出鬼没過ぎるだろ!何で居るんだよ!」

そんな風にお喋りしながら、麻帆良祭の思い出に浸っている三人は結局整理が終わったのは夕方になってからだった。

「ようやく…終わった」

木乃香とイルゼはグッタリしながらアルバムを閉じた。
アルバムには、イルゼ、木乃香、エヴァンジェリン以外にも、フェイや学の写真も収めていたので、麻帆良祭だけの写真で厚さ4cmのアルバムが殆ど埋
まってしまった。
イルゼが両腕を伸ばして大きく欠伸をすると、エヴァンジェリンがよく冷えたオレンジジュースを運んできた。

「ほら、これを飲んでゆっくり休め」

「やった!ありがとうばあちゃん!」

イルゼは礼を言うと、コップを受け取り一気に飲み干した。
季節は夏になり、セミの鳴き声が煩いほどだ。
そして、しばらくのんびりしているとエヴァンジェリンが口を開いた。

「さて、もうすぐ夏休みだ。修行も少し多目にして行こうと思っている。イルゼ、お前もマナの吸収の修行ももうすぐ第一段階が終了するだろう。思い出した
いと思わないだろうが、アスナと喧嘩した時、一度はマナを自信の手で取り込む事に成功している。一度、感覚を覚えれば、後は無意識に行える様にし
て、時間を掛けてその容量を増やしていくだけだ。そこまで行けば、日常生活の間にも修行は出来る。だから、そろそろ別の修行も開始しようと思う」

「別の修行?」

エヴァンジェリンの言葉に、イルゼは無意識に期待した目で言った。

「ああ、お前達も、何時か魔法に関る仕事をする事になるだろう。別に、普通の職業になるなとは言わんが、魔法使いである以上、麻帆良の様な特殊な
場所での仕事になってしまう。だから、今の内に魔法使いの仕事について話をしておこうと思う。修行についても、その話の中で言うからよく聞くんだぞ」

そう言うと、エヴァンジェリンは幾つかの紙を机に置いた。

「魔法使いの仕事は多岐に渡る。まず、この世界。デジタルワールド風に言えば現実世界。魔法世界風に言えば旧世界(ムンドゥス・ウェトゥス)な訳だが
…」

「旧世界?」

エヴァンジェリンの話に、イルゼは首を傾げた。

「要は、魔法世界を開拓した時にそっちを新世界、こっちは旧世界って風に分けたのさ」

「へぇ」

エヴァンジェリンの説明に、イルゼは納得した。

「こちらの世界で仕事をする魔法使いは大抵は一般人に紛れ込む。いい例が近右衛門や、他の魔法先生達だな。こちらの世界でボランティアをしたりも
する、『立派な魔法使いを目指す者』の多くはコチラの世界で活躍するのが多い。紛争地帯に於いて、民間人の守護、治療などをする」

「でもさ、魔法使いは一般人に魔法をばらさない筈だろ?」

「簡単さ、魔法を使わないんだ」

「は?」

エヴァンジェリンの言葉に、イルゼは困惑した。

「どういう意味だ?魔法を使わないって」

「そのままさ。イルゼ、一般人と魔法使いは違う。例え、どんな危険地帯であろうと、最低レベルの魔法使いでさえ、生き残るだけならば可能なのさ。なに
せ、素手の状態で銃をうてたり、手榴弾、要は爆弾でさえも、全力を出せば大怪我程度で済む。即死にはならないのさ。だから、身を護る最低限の術だ
けを行使し、魔法使いは一般人に手を貸す。まぁ、便利屋みたいなものさ。無償のな」

「それって…正義の味方って言うのかな?」

イルゼが言うと、エヴァンジェリンは首を振った。

「違う。正義の味方…中々どう概念付ければいいか判らんな。確かに、魔法をばらさない為に、派手な真似は出来ない。ただ、隠れて善行を積む。名声
も得られないし、感謝を述べられる事も少ない。これだけならば、まぁ、正義の味方と言えるかもしれんな。だが、実際には宗教の信者みたいなモノなん
だよ。教えに従い、その通りに行動する。ゾッとするほどの強制力だ。自身の意思を殆ど剥奪されている。いや、悪いと言うわけじゃない。人は、誰しも生
まれ育った環境で人格は形成される。その環境が、『立派な魔法使い』に至る道筋となっているだけだ。それに、意思全てを失っている訳じゃない。どち
らかと言えば、そういう種族と考えたほうがいい。ただ、人々の利となる様に人生を捧げる奴隷の様な種族。それも、根源レベルでの強制だ。近右衛門
の過去を見ただろう?ああ言う人生を送らされる者は少なくない。より大きな善の為、一見して悪とすら思える事も平気でする。倫理感も何もかもが特殊
なんだ。だから、忠告しておくぞ。立派な魔法使いに、自分と同じ考えを押し付けるな。いや、そもそもあまり近づかない方がいい。…あまりにも恐ろしい
からな」

エヴァンジェリンの話に、イルゼも木乃香も恐怖を感じた。
生まれながらに善行を強制される。
そして、その為には人の枠からも平気で外れようとする。
それでは、本当に奴隷と同じではないか。
そう、二人は言葉も出ずに思った。

「だからと言って、それを批判する権利は誰にも無い。そう言う思想もあると言う事なんだからな。他にも、仕事としては道を外れた魔法使いや、魔物の
討伐だ。これに関しては、教会とのイザコザが耐えないのだがな」

「討伐…」

木乃香は顔を顰めた。

「教会のイザコザって?」

イルゼが聞くと、エヴァンジェリンが口を開いた。

「元々、教会は魔法使い自体を異端だと考えている。だが、魔法使いの数はあまりにも多い。故に、道を外れ、魔法使いを捕獲する口実を常に狙ってい
るのさ」

「捕獲の口実!?」

あまりの言葉に、イルゼは仰天した。

「そうだ。魔法使いを如何に効率よく殺せるかなどの、魔法使いの情報を得る為にな。下手に誘拐すれば、それがバレた時に、過去、凄まじい戦いが起
きた事もある。捕まった魔法使いが殺された事を知った魔法使いが、捕まえた教会の人間を皆殺しにし、親兄弟、親族、友に至るまで虐殺した事件が過
去に報告されている。捕まった魔法使いのあまりの姿に、魔法使い達の怒りが一線を越えたのだ。当時…、魔法使い達は戦争をしていてな、ストレスも
あったのだろうが…」

「………どうなったの?…捕まった人は…」

エヴァンジェリンの話に、木乃香は顔を青褪めさせ、イルゼも気分が悪くなりながら聞いた。

「完全に解剖されていた。内臓も、肉も、血管や神経に至るあらゆるモノに解体されていた。それに、その前に凄まじい拷問を受けた映像も残っていた。
何度も痛めつけては回復させ、何度も、何度も…。異端審問と言う、666の審問の内、確実に死ぬモノを除いた全てを、受けさせられたのだ。焼き、切
り、刺し、突き、溶かし、茹で、魔法生物に食わせたりな…。ッ―!すまん、お前達には早すぎたな…」

エヴァンジェリンの話を聞き、木乃香は顔色が白くなり、イルゼも吐きそうになっていた。
魔法使いについての話を何度も聞き、良い所も、悪い所も、何度も聞き、徐々に耐性が出来てきていたが、それでも、未だ二人は6歳なのだ。
なんとか、気分を落ち着かせ、木乃香は「大丈夫…大丈夫やえ」と、言った。
そして、イルゼも頷いた。

「……続ける。その様な事もあり、捕獲を許される魔法使いを争奪する様な動きすらある。魔法使いは、幽閉するにしろ、殺すにしろ、最低限の人権は、
余程の外道でも与える。だが、教会は罪の大小に関係無く、取れるだけのデータを搾り取る。故に、魔法使いは教会に先を越される訳には行かない。だ
が、この仕事はあまり綺麗ではない。故に、あまり希望する者は少ない」

それから、エヴァンジェリンは話を切ると、二人が落ち着くのを待った。
そして、しばらくして話を続けた。

「他にも、コチラで生まれた魔法使いの育成の為の学校などもある。さて、コチラの世界の話はここまでにしよう。次に、魔法世界の仕事だ。魔法世界で
は、大抵が国かギルドに入り、その中でパーティーを作る」

「ギルド?パーティー?」

エヴァンジェリンの言葉に、イルゼが首を傾げると、エヴァンジェリンは少しずつ話始めた。





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