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第45話『相坂さよの過去・後編』
デジモンテイマーである少年の物語が始まるよりも以前の話である。
その時代に、一つの異変があった。
デジモンの行方不明事件である。
ピヨモンの村や、ガジモンの村、ワクチンもウイルスもデータも関係無しの事件だった。
そこで、事態を重く見たレオモンとライバルのオーガモン、盟友であるガルダモンが手を組んだ。
普段は喧嘩を売る事しかしないオーガモンですらも、デジモン達、その中でも幼年期や成長期のデジモンばかりが消えるのを黙っていられなかったので
ある。
フォルダ大陸は、ファイル島を中心にした西側にあり、ファイル島の南に広がる暗黒大陸、東側に位置するWWW大陸に次ぐ広さを誇っている。
そして、事件は主にフォルダ大陸で起きていた。
空を飛べるガルダモンがフォルダ大陸の北に広がる山岳地帯を担当し、レオモンとオーガモンは残る平原地帯と森林地帯をそれぞれが担当した。
そして、レオモンが平原地帯のサーキット平地に在るコカブテリモンなどの虫型デジモンが多く生活するビートフィールドで、一体のデジモンが次々にデジ
モン達を攻撃しているのを発見した。
そして、何故か倒されていくデジモン達はデジタマにはならずに消えていった。
それに違和感を感じながら、レオモンは駆け出した。
「やめろ!!」
レオモンの叫びに、そのデジモン、ファントモンはレオモンに襲い掛かってきた。
しかし、歴戦の勇者であるレオモンは、世代が一代上のファントモンを容易く捻じ伏せた。
そして、ファントモンは逃げ去り、ファントモンが逃げたと思われる場所にガルダモンとオーガモンを呼び、共に探索した。
そこは、フォルダ大陸の中心にある、本当から少し離れた孤島だった。
オーガモンが、島の側面部に洞穴を発見し、ガルダモンは穴が小さ過ぎて入れなかった。
中に、捕われたデジモンが居るかもしれないと考え、オーガモンの提案した洞穴を壊す案は却下された。
そして、洞穴の奥には幾つ物檻があり、そこには何百体ものデジモン達が押し込まれていた。
オーガモンとレオモンは協力して全てのデジモンを開放すると、一体のテントモンが言った。
「まだ、コカブテリモンが一人、連れ去られたままなんや!どうか、助けてあげておくんなはれ!」
その言葉に、オーガモンは自分が行くと言ったが、レオモンは断固として自分が行くと言って曲げなかった。
顔を合わせれば喧嘩ばかりだったが、何かデジモンに危機が降りかかればいつもオーガモンは手伝ってくれた。
彼にとって、ライバルであり、喧嘩仲間であり、最高の親友なのだ。
故に、レオモンはオーガモンにデジモン達を託して、レオモンは更に奥へと進んだ。
すると、そこには一体の見知らぬデジモンと、ファントモン、そしてナノモンが居た。
そして、レオモンは見知らぬ凶悪な姿をしたデジモンから感じる恐ろしいオーラに身構えた。
すると、そのデジモンはナノモンとファントモンに言った。
「計画を進めよ」
そう言って、そのデジモンは姿を消した。
「はっ!デーモン様!」
その名前を、レオモンは聞いた事がなかった。
全く未知の存在に、レオモンは警戒したが、完全体二体を前に、動くことは出来なかった。
すると、ナノモンがファントモンに言った。
「そろそろ向こう側の準備も整っただろう。キチンと食べてきたのだろうな?」
その言葉に、ファントモンは忌々しげに答えた。
「なんとかな。そこの忌々しいレオモンが邪魔をしなければ、もっと食べてこれたと言うのに」
その言葉に、レオモンは襲われたデジモン達がデジタマにならずに消えていた理由を悟った。
「貴様!自分より弱きデジモンをロードしたのか!貴様にはデジモンとしての最低限のプライドすら無いのか!?」
その言葉に、ファントモンは激昂した。
「なんですと!!なんたる侮辱か!!私は効率的な手段を選んだだけだ!!」
その言葉を、ナノモンが手で制した。
「耳を貸すな。貴様には為すべき使命があるだろう。デーモン様の期待を裏切る気か?」
その言葉に、忌々しげにレオモンを睨み付けると、ファントモンは部屋の奥へと消え去ってしまった。
そして、残されたナノモンとレオモンは互いに睨みあった。
「ナノモンよ、何を企んでいる!あのデジモンは何者だ!」
レオモンの叫びに、ナノモンは何も答えずに両手を前に突き出した。
「な!?」
レオモンは右に跳んだ。
その瞬間に、ナノモンの指から必殺技のプラグボムが発射された。
次々に発射されるソレは、デジモンの体のデータを容易く破壊してしまう。
レオモンは獅子王丸を構えながら躱すが、両手から繰り出されるプラグボムのあまりの多さに、レオモンの動きは徐々に制限されていった。
「おのれ…」
レオモンに、プラグボムが被弾しようとした、その瞬間だった。
「覇王拳!!」
その叫びと共に、般若の顔を模したエネルギー波がレオモンに被弾しようとしていたプラグボムとナノモンに向かった。
そして、覇王拳を撃ったオーガモンは叫んだ。
「今だ!!レオモン!!」
その叫びと共に、レオモンは右手にエネルギーを集中し、ナノモンに向かって駆け出していた。
オーガモンはデジモン達を逃がした後、外で待機していたガルダモンに後を任せて戻ってきたのだ。
「おおおおおおおおお!!!!!」
叫びと共に、凄まじいエネルギーがレオモンの右手に集中する。
それを見たナノモンはすかさずにレオモンにプラグボムを撃とうとするが、突然飛来した骨棍棒が腕に当たった。
「ぐあ!!」
そして、その隙を逃さずにレオモンは必殺技を放った。
「獣王拳!!」
凄まじい威力の獣王拳がナノモンに当たった。
「ぎゃああああああああああ!!!!!!」
凄まじい悲鳴と共に、ナノモンの体は光に包まれていった。
そして、レオモンはオーガモンに笑いかけた。
「ありがとうオーガモン。おかげで助かった」
その言葉に、オーガモンはソッポを向いて顔を赤らめた。
「う、うっせえ!お前がいなくなると…あ、あれだ!!競う奴がいなくなっちまうからな!!」
その言葉に、レオモンは苦笑しながら「ああ、そうだな」と答えた。
そして、二人は互いに自然と笑いあった。
そして、突然オーガモンが駆け出した。
レオモンが目を丸くしていると、オーガモンはレオモンを突き飛ばした。
そして、レオモンの目の前でナノモンのプラグボムを受けてしまった。
「ぐああああああああ!!!!!」
ナノモンは、洞穴にあるパネルを弄りながら、片腕をレオモンとオーガモンに向けていた。
「オーガモン!!わ、私を庇って…。おおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
オーガモンの体が光に包まれていくのを抱き締めながらレオモンは吼えた。
そして、渾身の力を篭めた獣王拳を放った。
だが、消えかかっているナノモンは笑い声を上げていった。
「ヒャハハハハハ!!貴様も道連れだ!!この洞穴に居る者全員!!転送してくれるわ!!」
その言葉と同時に、獣王拳はナノモンを吹き飛ばした。
そして、そのデータはレオモンの元に吸収された。
そして、レオモンは涙を流しながら消え行くオーガモンを抱き締めた。
「すまない…。一度助けられたのに、また…。私のせいで!!」
その言葉に、オーガモンは消え掛けの状態で掠れた声で言った。
「馬鹿言ってんじゃ…ねえよ。体が勝手に動いちまったんだ。手前の…せいじゃ…ねえよ。はは!そういや…、結局俺は…お前えには一度も…勝てなか
ったな。レオモン、手前は…誰にも負けんじゃねえぞ?俺に…勝った…んだから…よ」
その言葉を最後に、オーガモンの体は一つのデジタマに変わった。
そして、洞穴の中央に突然、光があふれ出した。
「な!?これが奴が言っていた転送か!?」
その言葉を最後に、レオモンと、オーガモンのデジタマ、そして、洞穴で拘束されていたコカブテリモンが光に呑み込まれた。
そして、レオモンは光の海を流されていた。
決して親友の魂を離すまいとしながら。
そして、どこからか声が聞こえてきた。
『助けて!!』
その叫びにの方向に、レオモンは光の海を泳いだ。
そして、一際強い光の中に身を投じた瞬間、彼の体は見知らぬ場所に存在していた。
足元には、見知らぬ男が倒れていた。
レオモンはオーガモンのデジタマを抱かかえながら、その存在に気が付いた。
「貴様は!?ファントモン!!」
レオモンの声に、ファントモンは驚愕の声を上げた。
「な!?馬鹿な!!何故貴様がこの世界に!?」
そして、レオモンは手術台に磔にされているさよを見た。
その瞬間に、レオモンは凄まじい怒りが燃え上がった。
「貴様あああああああ!!!!!」
それは、八つ当たりにも近かったのかもしれない。
大切な親友を失ってしまった事の。
レオモンは、ファントモンが振り被った金色の鎌、『ソウルチョッパー』を獅子王丸で防ぐと、左腕で獣王拳を発動し、力の限り殴りつけた。
「おおおおおおおおおお!!!!!」
そのまま、怒涛の百獣拳を放ち続けた。
身を裂かれる様な悲しみを怒りに変えて。
涙を流しながら只管で殴り続けた。
そして、ファントモンの体が光に包まれ始めたのを見て、漸くレオモンは止まった。
「あが…がぎぎ…が」
ファントモンの体の構成は次々に解けていった。
直にデータに戻るだろう。
レオモンはそう判断すると、さよに近づいた。
「ひっ!?」
さよの怯えた声に、レオモンは拘束器具を外しながら謝った。
「すまない。怖がらせてしまったね。私はレオモンと言う。ここから出よう」
レオモンは優しく語り掛けた。
すると、さよの目から警戒の色が薄れた。
そして、レオモンは近くの机に置いておいたデジタマを片腕で抱くと、さよの元に戻り空いた手でさよの手を取り、消え行くファントモンを横目に見ながら去
って行った。
これが、後の大誤算であった事を、レオモンは気付かなかった。
そして、シーンは次々に流れて行った。
さよは、寮から出た。
そこに居れば、嫌でも理恵の事を思い出して胸が張り裂けそうになったからだ。
そして、レオモンはオーガモンのデジタマに封印を施した。
何時の日か、デジタルワールドに戻る日が来るまで…、生まれてこないように。
そして、彼女は麻帆良学園から一時間以上掛かる祖母の家に下宿する事になった。
さよの両親は既に亡くなっていた。
彼女が頼れるのは祖母だけだったのだ。
祖母は一人暮らしでさよが住む事を快く思った。
そして、さよが思い切ってレオモンを紹介すると、最初は仰天したが、レオモンと話す内に打ち解けた。
そして、レオモンは祖母の生活を支え、さよと共にデジタルワールドに戻る方法を模索する事になった。
そして、ある日祖母はレオモンとさよに言った。
「もしかしたら方法があるかもしれないわよ」
その言葉に、レオモンとさよは目を丸くして驚いた。
そして、祖母、相坂キヨは語った。
さよが魔法使いの資質があるのだと。
さよは目を見開いた。
さよは魔法使いの存在を知っていた。
何故なら、彼女の思い人や嘗ての親友達がそうだったからだ。
だが、さよは魔法使いになる素質は無かった筈だった。
その事を話すと、キヨは語りだした。
元々は、キヨの代で途絶えた血筋だったのだが、相坂家は魔法使いの家系だった。
だが、徐々に血が薄れていき、途絶えるのも時間の問題だった。
そして、キヨの娘であり、さよの母の相坂カエデは魔法使いの資質は無かった。
だが、キヨもカエデもそれでいいと思った。
魔法は争いを呼ぶ。
そんな力を欲しくは無かったのだ。
だが、さよは違った。
生まれた途端に分かってしまった。
さよの魔力の大きさに。
キヨは慌てた。
もし、この事が知られれば、何の力も無い家系である自分達ではさよが魔法使いに利用されてしまっても助けることが出来ないからだ。
そして、キヨはさよの魔力を封印した。
そして、さよが万が一に超常の存在に近づく日まで、その力は封じる事にしていたのだ。
さよを護れるほど強い存在が現れ、その存在が信頼に足ると信じきれる日まで。
そして、レオモンが現れた。
レオモンがデジタルワールドに戻る方法は魔法しかないと考えられる。
そして、さよがレオモンをデジタルワールドに帰す代わりに、さよが立派になるまで護ってあげて欲しいと言ったのだ。
さよは言えなかった。
自分がずっと以前に共に行きたいと願った少年が居る事を。
彼女が祖母に打ち明けていれば、違ったかもしれない。
さよはそれでも、助けてくれたレオモンの為になるならばと誓った。
魔法を覚えると…。
そして、レオモンも誓った。
自分はどうでもいい。
だが、オーガモンのデジタマだけは絶対にデジタルワールドに帰すと。
そして、自分の為に危険な世界に身を投じてくれると言うさよを守り抜くと。
そして、シーンは夏休みに変わった。
祖母の魔法の修行は理論から入るものだった。
祖母が補完していた少ない魔法の教科書を読みながら勉強した。
そして、レオモンは家から出る事も無く、毎日を座禅とキヨへの奉仕に尽くしていた。
そして、レオモンの世界の話を聞くのが、さよの毎日のお気に入りだった。
そして、テイマーと呼ばれる絆の伝承の話を聞いた。
レオモンも現実世界に来るまでは信じられなかった話だった。
別世界の人と言う種族と結ぶ絆、それがデジモンに無限の可能性を与えると。
さよは、レオモンにテイマーになりたいと願い出た。
だが、やり方もわからないし、テイマーとなって親しくなり過ぎれば、何時か来る別れの日が辛くなる。
そう言って、レオモンは断った。
さよは悲しかったが、それ以降は一度も言わなかった。
さよも分かっていたのだ。
何時か来る別れの日を。
そして、月日は流れ、11月になった。
その時、ついに目の前に現れたのだ。
ピエモンが…。
レオモンとさよの目の前に現れたピエモンは語った。
自分のしてきた悪行を。
そして、その責任はレオモンとさよに在ると。
そして、12月24日に殺しに来ると。
ピエモンの言葉は、さよを恐怖のどん底に陥れた。
そして、レオモンはさよに隠れている様に言った。
一人で行くと。
その言葉に、さよの記憶が蘇った。
理恵の最後の姿が。
さよは思った。
二度と同じ間違いは犯さないと。
そして、ピエモンに立ち向かう方法が無いかを模索した。
そして、12月20日の事だった。
突如来訪した、当時の麻帆良学園学園長である『中村康彦』が相坂の家を訪ねたのだ。
そして、彼が語ったのは麻帆良学園の成り立ち、そしてピエモンを封印する方法だった。
それは、あまりにも残酷だった。
レオモンは中村を殴り付けようとしたが、逆に圧倒的な力で捻じ伏せられた。
そして、中村はピエモンの行ってきた所業と、その責任の向かう場所を語った。
相坂さよがピエモンを開放した。
そう発表したらどうなるかを語った。
その証拠と共に。
さよが研究所に入る姿と、ファントモンが梶原警部の死体を吸収する姿、そして、ピエモンとの会合。
それらの写真を見せられ、もしも封印に協力しなければ祖母や、さよの関係者は恐ろしい運命に引きずり込まれると。
さよとレオモンには選択権は無かった。
そして、さよとレオモンは、運命の日の前日になってから祖母に語った。
封印は、生きた人間の肉体と魂を要として発動する。
要となった人間は、生きたまま封印が解かれるまで一生死ぬことは無く、時間から取り残されてしまうという事。
明日、この家を出たら二度と戻ってくることは無いだろう事を。
話を聞いたキヨは、目をこれ以上無い程見開いて涙を流した。
そして、レオモンは頭を畳の床に押し付けた。
「申し訳ない!!私は、貴方の孫を護ると誓ったと言うのに…。恩を仇で返すことになってしまった…」
だが、キヨはレオモンを責めなかった。
それどころか、涙を流しながら頭を下げるレオモンの頭を優しく撫でた。
そして、震える声で言った。
「謝らないで…、貴方もさよと一緒に行くのでしょう?」
その言葉に、レオモンは弱々しく「はい…」と答えた。
「ここは貴方の世界じゃない。それなのに、この世界の為に身を捧げる貴方をどうして責められるの?」
レオモンが顔を上げると、キヨは涙を零し続けていた。
残酷すぎるとキヨは思った。
両親を亡くして、友達を亡くして、その上自分の人生すらも棒に振らなければならない。
理不尽過ぎると、キヨは涙した。
中村康彦と言う男の事をキヨは憎悪した。
そして、それ以上に何も出来ない自分への怒りで気が狂えそうだった。
だが、自分が醜態を晒せば、さよに余計な心配を掛けてしまう。
キヨはさよの両手を取った。
「さよ。きっと、貴女が開放される日が来る事を信じているわ。お祖母ちゃん…貴女が帰ってくるのを待ってるわ。死んでも、絶対にここから離れない!…
私の可愛いさよ…」
そう涙を流しながら言い、キヨは涙を溢れさせるさよの体を抱き締めた。
「ごめんなさい。貴女の為に何も出来ない駄目なお祖母ちゃんで…」
そう言うと、更に強くさよを抱きしめたまま、キヨは肩を震わせた。
何時間も…。
さよも、そのキヨの体を抱き締め返して涙を流し続けた。
レオモンは、二人の居る部屋を出てオーガモンのデジタマと共に、暗い部屋で座禅をした。
そこは、レオモンがこの数が月を過ごした部屋だった。
そして、デジタマにレオモンの涙が掛かった。
「すまない…オーガモン。私は、お前をデジタルワールドに帰さなければならないのに…」
そして、レオモンは歯を食い縛った。
「私は、何をしているのだ…。さよがこの様な状況に陥った責任は私にある…。ファントモンを逃がさなければ…。あの日、あの時にファントモンを倒して
いれば…。奴は究極体になってしまった…。人の魂を食し、力を付け過ぎてしまった。私では、奴には勝てない…」
レオモンの小さな慟哭の叫びを、封印されたオーガモンのデジタマだけが聞いていた。
そして、シーンは雪の日になった。
――1940年12月24日火曜日、麻帆良学園本校女子中等学校の南西。
その場所に、相坂さよとレオモン、そしてタバコを咥えた中村康彦が立っていた。
さよの顔はこれ以上無い程青褪めていた。
その弱々しい体を、レオモンは確りと抱き締めた。
さよの髪の毛は僅かに短かった。
と言っても5cm程度だ。
キヨに渡したのだ。
さよの一部だけでも共に居たいと言う祖母の願いを聞き入れ。
オーガモンのデジタマは、キヨに預けてきた。
もはや、デジタルワールドに帰す事は出来ないかもしれない。
レオモンとピエモンだけが、デジタルワールドとの接点なのだから。
故に、レオモンはキヨに頼んだ。
もしも、デジタマの封印が解けたら、その時にデジタマに触った者に渡してくれと。
デジタマに使った封印は、レオモンがファイル島に居た時に、偶然に溶岩洞で見つけた『レオモンの墓』で見つけた一つの神具だった。
レオモンは、それをレオモン族の秘法と考え、墓を再び封印し、お守りとしてその神具を持ち出した。
そして、それは古の書物からデジヴァイスと呼ばれる事を知った。
それは、異世界の人と呼ばれる種族との絆を結ぶ物だと言う。
レオモンは半信半疑だったが、それを、デジタマの封印に使った。
もし、封印が解けるならば、それはオーガモンのテイマーとなるべき存在がその封印に触った時だろう。
そして、運命の時が来た…。
レオモン達の前に浮遊する強烈な殺意を宿した道化師の名はピエモン。
レオモンはさよに「後ろにさがっているんだ」と言った。
そして、獅子王丸を構えながらピエモンを睨んだ。
レオモンがピエモンの注意を引き、中村が封印の儀式をする。
それが流れだった。
ピエモンは嫌らしい笑みを浮べてレオモンを見下ろしている。
「久しぶりですねぇ、レオモン。約束の日が来ましたねぇ」
その言葉に、レオモンは鼻を鳴らしてピエモンを睨み付けた。
――時間稼ぎだけでは終わらせん!!
そして、レオモンは一気に駆け出した。
「ほぉ、抵抗するのですか?無駄な事を…」
ピエモンは嘲るように笑うと、トランプソードを手元にテレポートし、放った。
「そんなもの!!」
レオモンは、トランプソードに臆する事無くピエモンに向かって走った。
その間に、中村は裏鬼門に施した封印式を起動する。
起点となる四つの魔法陣は、裏鬼門の東西南北に既に描いてある。
さよは、震えながらレオモンの戦いを見守っている。
「獣王拳!!」
四本の飛来するトランプソードを僅かな動きだけでレオモンは躱す。
そして、獣王拳をピエモンに向けた。
そしてピエモンは、右手を獣王拳の迫る方向に掲げた。
「この程度ですか?」
そして、右手だけで獣王拳を抑えると、ピエモンは獣王拳をレオモンの方向に弾き返した。
「なんだと…」
レオモンは後ろに跳んで躱すと、ピエモンに驚愕の表情を向けた。
渾身の獣王拳をアッサリと弾き返したピエモンに、驚きが隠せなかった。
「馬鹿な…、如何に究極体となったとはいえ、貴様が進化したのは最近だろ!!何故これほどの力が!!」
デジモンは、長い年月の修練によって、その世代の枠を超えた時に進化する。
だが、進化してから数ヶ月程度では究極体としての力は出し切れないはずだった。
レオモンは、過去に完全体をも倒したことが在る。
村を暴れまわる二体のスカルグレイモンをオーガモンとそれぞれ一体ずつ倒したのだ。
オーガモンの骨棍棒はその時にスカルグレイモンの骨から作った物だ。
それほどの実力を持つレオモンの渾身の必殺技をここまでアッサリと弾き返すなど常軌の沙汰ではなかった。
すると、ピエモンは愉快そうに笑った。
「貴方のおかげですよ」
その言葉に、レオモンは眉を顰めた。
「何の事だ!!」
レオモンの叫びに、ピエモンはけたたましく笑った。
「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!知りたいですかぁ?いいでしょう!!お話しましょう、私がこれほどの力を手に入れた理由を!!」
そう言うと、ピエモンは戦闘中だと言うのに語りだした。
その間にも、中村の封印の準備が進んでいるのも知らずに。
ピエモンは慢心していたのだ。
究極体になり、恐ろしい力を手に入れた自分に敵う者等誰も居ないと確信していたからだ。
「貴方は、あの日私に止めを刺す事無く去って行った。そして、私はデータが崩壊する中で、何が何でも生き延びてレオモン、貴様と小娘を殺してやると
誓った。そして、奇跡が起きたのですよ!!」
「奇跡だと?」
ピエモンの言葉に、レオモンが聞いた。
「そうです!!あの時、あの人間の守護者である…なんといいましたかねぇ?そう、梶原と言いました。覚えていますとも!!私に偉大なる一歩を踏み出
させた男!!あの男の魂は、未だにあの場に残っていたのです。恐らくは小娘を助けたいなどと言う考えにでも縛られたのでしょう。そして、私は食べた のですよ!!」
「なん…だと?」
ピエモンの言葉に、レオモンは目を見開いた。
「食べたのですよ。人間の魂をねぇ。そうしたらどうです?私の体は健康そのものになったじゃありませんかぁ!!そして、この前もお話ししたとおりです。
私はたくさんの人間を殺しました。人間の魂の味付けは、その者が死の間際に感じた恐怖によって変るのを知っていましたか?」
ニタニタと怖気の走る笑みで、ピエモンは言った。
「貴様…」
レオモンは怒りのあまりおかしくなりそうだった。
連続殺人事件、赤マントの話しを、レオモンとさよは探った。
そして、ピエモンの話したとおりの事件が起きていた。
そのどれもが、残酷な殺し方だった。
それを、さよもレオモンも、自分達への怒りの八つ当たりだと思った。
それ故に、罪の重積は重かった。
だが、目の前でピエモンは言った。
食べる為に殺したのだと。
少なくともさよは、責任など負う必要はなかったのだ。
レオモンは両手に凄まじい威力の獣王拳を発動し、ピエモンに向けて放った。
だが、そのどれもを、ピエモンはアッサリと回避してしまった。
「ほっほっほっほ。その様な攻撃は届きませんよ。お話の途中だと言うのにせっかちな方ですねぇ?」
ピエモンの言葉に、レオモンは「黙れ!!」と叫びながら獣王拳を放った。
だが、それもピエモンには当たらなかった。
ピエモンが獣王拳に向かってトランプソードをテレポートしたのである。
それだけで、獣王拳は防がれてしまった。
「いやぁ、人間の魂は素晴らしい。デジモンをロードする以上の力が簡単に手に入ってしまうのですから!!」
その言葉と同時に、突如レオモンとピエモンの戦場から少し離れた場所から光が溢れた。
「なんです!?」
ピエモンが視線を向けると、そこには魔法陣が光を放ち、その中心でさよが目を瞑っていた。
その姿に、ピエモンは悪寒が走った。
ピエモンは、レオモンから視線を外して魔法陣の中のさよを睨み付けた。
「何をしている!!!」
そう叫びながら、トランプソードを投げつけた。
だが、トランプソードは中村の放った闇の魔法によって撃墜された。
「な!?貴様!!」
叫びながら、ピエモンは中村に向かって駆け出した。
そして、トランプソードを構え、中村に投げつけようとした時、突如背後に重さを感じた。
「なんだ!?」
すると、背後から声が聞こえてきた。
「ピエモンよ。貴様は危険すぎる」
そして、レオモンはピエモンを魔法陣の中に押し入れた。
そして、その瞬間に、中村の声が響いた。
「『ホスティア・フェッレ・ラピス(人柱の要石)』」
その言葉と共に、魔法陣の中のさよ、レオモン、ピエモンの姿は消え、代わりに立方体の巨大な岩が現れた。
そして、映像は途切れた…。
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