第42話『王者の風格!ワープ進化、サーベルレオモン』


背後で、エヴァンジェリン達の戦闘の音を聞きながら、サングルゥモンはさよと木乃香を乗せて疾走していた。
そして、一気にウルスラまで走りぬけ、戦線から完全に離脱したと判断したサングルゥモンは、さよと木乃香を降ろすと、途端に戦地に戻って行った。

「イルゼ!!」

その後姿に声を掛けるが、イルゼは言い終わる前に遠くへと駆け抜けて行ってしまった。
そして、残された二人はお互いに見つめ合った。
さよは、高校生でありながら小柄だったが、それでも木乃香の身長の倍はあった。

「えっと、貴女は…」

さよが声を掛けると、名前が分からずに口篭ってしまった。

「あ、うちは木乃香。近衛木乃香言います」

「近衛?」

さよは、木乃香の苗字を聞いて目を見開いた。

「えっと、相坂さよさんやよね?」

さよのリアクションに驚きながら、木乃香は恐る恐る聞いた。
すると、さよはハッとなり頷いた。

「あ、うん。私は相坂さよ。えっと、木乃香ちゃんでいいかな?」

さよの声は、とても優しかった。

「ええですよ」

ニコッと笑いながら木乃香は答えた。

「えっと、何から聞いたらいいのか分からないんだけど…。貴女は近右衛門君の娘さん?」

さよは恐る恐ると言った感じに聞いた。

「ちゃいます。うちはおじいちゃんの孫です」

木乃香が言うと、さよは寂しげに俯いた。

「そっか…。近右衛門君…」

だが、その顔に儚くも優しい笑みが浮かんだ。

「幸せに…なってくれたんだ…」

木乃香は、その笑顔がどこまでも綺麗で、どこまでも脆く感じた。

「さよさん。貴女は生きてるんですか?」

木乃香はそう聞いた。
イルゼの話では、相坂さよは『赤マント』によって殺害された筈だった。
だが、目の前の彼女はどう見ても生きていた。

「私は…」

そこまで言い掛けて、さよの言葉は中断された。
サングルゥモンが、血だらけの青年を背負って戻ってきたのだ。
だが、木乃香はそれ以上にサングルゥモンが震えているのを悟った。
だが、理由を聞いている時間は無かった。

「イルゼ、うちが簡単な癒術をかけるさかい、何かあったら拙いから寮までそん人とうちらを運んでや」

木乃香は的確に状況を判断し、そう言った。

「わかった」

サングルゥモンは頷くと、さよに顔を向けた。
さよは一瞬だけドキッとしたが、何とか顔に出さずにおけた。

「相坂さよさんだよね?俺は今はサングルゥモンで、名前はイルゼだ。よろしくな」

サングルゥモンがそう言うと、背中を低くして木乃香とさよが乗れるようにした。
サングルゥモンの背中は広く、怪我をした青年を乗せているのに木乃香とさよは安定して乗れた。

「は、はい。えっと、よろしくお願いします」

慌てて挨拶を返しながら、木乃香を真似て自分もサングルゥモンの背中に乗った。
そして、サングルゥモンはそれを確認するとゆっくりと駆け出した。

数分で寮に着くと、サングルゥモンはそのまま入った。
すると、管理人の夢水が出てきた。

「な!?しまった、夢水さん!!」

イルゼは慌てて何とか弁解を考えようとすると、夢水は気にせずに、サングルゥモンの乗せている青年に視線を向けた。

「大体の事情はわかっている。私は引退したが魔法関係者だ。その青年は私に任せて、君たちは部屋に戻りなさい」

そう言いながら、夢水はコンビニ店員の青年をゆっくりと降ろすと、管理人室に入って行こうとした。

「ゆ、夢水さん!」

木乃香が慌てて呼び止めようとしたが、夢水は首を横に振った。

「いいから、君達は部屋に戻りなさい。今、この外は安全とは言えない。学園結界が起動しているから、建物内は安全だ」

それだけ言うと、夢水は管理人室に消えて行った。

「……、レオモンとばあちゃんも戻って来るなって言ってた。でも、でもよぉ…」

サングルゥモンは歯を食い縛りながら血を吐く様に言った。

「イルゼ…。戻ろう。おばあちゃん達を信じて…」

木乃香はサングルゥモンの頭を優しく撫でながら言った。

「ああ…」

サングルゥモンは、エレベーター前で進化を解き、三人は木乃香達の部屋に戻って行った。
部屋に入り、窓から、遠くの場所で何箇所かが光っているのが見えた。
イルゼはそれを見ながら、拳を握り締めた。
そして、三人は黙り込んで時間が経つのを待った。










時間は少し遡って、近右衛門がエヴァンジェリンの元に到着する寸前。
近右衛門は、学園結界の元に神多羅木が到着したのを念話で知った。
それまで、近右衛門は『魔王の眼』により、侵入者を発見しては、遠距離魔法を発動し、撃退していた。

そして、学園結界が回復する寸前に、近右衛門はピエモンから感じるオーラが別種の、更に禍々しいモノに変貌したのを感じた。
魔王の眼で見た瞬間に、悟ってしまった。
今のままでは、勝てないと。
故に、決断した。

近右衛門は懐から一本の薬瓶を取り出した。
それは、近右衛門が学園長室を出る時に持ち出した二つの内の一つだった。
彼が、まだこの学園の長になる前に、ある魔術師から受け取った秘薬だった。
彼が、力を得る為に人体改造を頼んだその魔術師の名は、後に近衛彩香と改姓する神代彩香であった。

彼女は近右衛門を研究対象であり、魔法世界の為の兵器と考えていた。
そして、永劫を魔法世界の為に戦わせる為に近右衛門にその薬を授けた。
魔法世界がまだ争いが絶えずに、大国のパワーバランスが乱れていた時代に仕入れた、賢者の石の妙薬と当時、盛んに研究されていた若返りの秘薬
を一つにしたのだ。
だが、この薬には問題があった。
確かに、若返り、年を取らなくなるのは素晴らしい効力だった。
だが、代わりにその薬を飲んだ者は人間ではなくなってしまうだ。

禁断魔法の四番目、『堕落の魔法』だった。
歳を取らなくなる代償は、歳を取れなくなることだ。
死ぬことは出来る。
だが、歳を一切取らなくなる事は、化け物になると同義だった。
だが、当時の近右衛門は構わないと考え、自分が歳を取り力が衰えた時が来たら使おうと考えていた。
だが、彼が愛した相坂さよがこの地に縛り付けられているのを知り、理想は砕けた。
そして、彼はこの薬を封じた。
彼は、年月のままに朽ちる事を誓った。

だが、彼は新たな望みを得た。
死の間際まで、この学園を護りたいと。
子供達が学び、育ち、巣立つ場所。
それを、壊させる事は許さないと。

近右衛門は薬瓶の封印を解き、中の液体を飲み干した。
そして、全身が凄まじい熱を発した。
骨が皮膚を突き破るかのような感覚。
体が破裂するかのような感覚。
凄まじい激痛が近右衛門を襲った。
そして、全ての痛みが取れた時、彼の姿は現役時代のソレに変わっていた。

この姿では、近右衛門を近右衛門と認識されるのは難があるだろう。
だが、最盛期の近右衛門の幻術を見破る事が出来る者は何人居るだろうか。
そして、近右衛門は学園結界が起動したのを確認し、その恩恵で眼を覚ます魔法関係者全員に通達した。
すぐに持ち場に戻り、侵入する者を倒すようにと。

そして、近右衛門は空中を神速で翔けた。
その姿を目視できた者は居ない。
そして、エヴァンジェリンに迫る刃を見つけ、懐に入れてあった鋼鉄製の扇子に魔力を通し強化する。

甲高い金属音が鳴り響く。
そして、近右衛門は口を開いた。

「困るのう。彼女は大切な儂の友人なのじゃが」

鋭くピエモンを睨みつけながら言った。
その背後で、エヴァンジェリンが呆然とした声で「じじ…い?」と言うのが聞こえた。
エヴァンジェリンのそんな言葉を自分が引き出したかと思うと、近右衛門は内心で苦笑した。

「君は誰だい?」

ピエモンが近右衛門を睨みつけながら言う。
不愉快気に、鋭利な視線を近右衛門に向ける。

「儂かのう?」

眼を細め、嘲る様に聞く。
既に、戦闘は開始しているのだ。
目の前の存在を挑発し怒らせようとしている。

「ああ、君だよ」

ピエモンは途轍もない殺意を篭めて言った。

「儂の名は」

近右衛門は、唇の端を上げながら言った。

「近衛…近右衛門じゃよ」

「爺ぃだと!?」

最初に反応したのはエヴァンジェリンだった。
それに、何ともおかしな気持ちになり、内心で更に苦笑した。

「うむ、少し遅くなったのう」

そして、エヴァンジェリンに笑いかけながら、独白するように言葉を紡ぐ。

「使うつもりは無かった。もう、儂は理想を諦めた身じゃからな…」

近右衛門はピエモンを鋭い視線で睨み付けた。

「じゃが、儂はこの学園を護る!!その為ならば、遠き日の誓いに泥をも塗る事厭わん!!!エヴァンジェリンよ、木乃香に念話をし、力を戻すのじゃ」

「あ、ああ…」

近右衛門の言葉に、寮の部屋でジッとエヴァンジェリンの無事を祈っていた木乃香に念話を送った。

『木乃香、カードを使ってくれ』

『おばあちゃん!!うん、わかったえ。…無事なんよね?絶対に、元気で帰って来てね!!』

木乃香の言葉に、エヴァンジェリンは心の中が温かい物に満たされていく感覚を覚えた。

『ああ、勿論だ!!』

すると、エヴァンジェリンの魔力は戻った。
エヴァンジェリンは、悟った。

――なるほど、仮契約に似ているか…。

エヴァンジェリンの身体に、木乃香の魔力が流れてくる。
だが、それだけではない。
封印が解かれた事で、それまで栓をされていた水道管から一気に水が出る様に、エヴァンジェリンの体は一気に凄まじい量の魔力を生成した。
そして、その魔力は、封印される前以上に跳ね上がっていた。

封印により抑圧されていた魔力が、解放された事でエヴァンジェリンの基本魔力すらも押し上げたのだ。
エヴァンジェリンは、自分に逃げろと言い殺されたレオモンの埋められた場所を見た。

途轍もない殺意が心を満たす。
だが、頭はどこまでも冷静だった。
600年を生きる彼女は、殺し合いのスイッチを入れたのだ。

サウザンドマスターに挑んだり、ただの悪戯や敵を追い返す時とは違う。





正しく、殺陣の心構えだった。




そして、近右衛門とエヴァンジェリンとピエモンが、空中で三角上に広がり、エヴァンジェリンと近右衛門が睨み付ける中で、ピエモンは高らかに笑い出し
た。


「フ、フフフ、フハハハハハハハハハ!!面白い!!さあ!!踊る真剣!!道化師が幕を上げる、殺戮ショータイムの始まりだ!!!」

その言葉が、開幕の合図だった。
近右衛門は、この戦闘領域に決して入らないように魔法関係者全員に念話で通達した。
誰もが頷いた。
誰が好き好んで、近づいただけで死に直行するような場所に行くと言うのだろうか。
勇敢と無謀の違いはわからずとも、絶対的な死地である事は、どれだけの愚か者でも理解した。
そして、それは敵も同じだった。
吹き荒れる魔力と殺意の波動は、麻帆良中の敵味方関係無しに魔法関係者全員に恐怖を覚えさせた。


そして、最初に動いたのはピエモンだった。

「行きますよぉ!!トランプソード!」

途端に、ピエモンの背中のマジックボックスから四本の、スペード、クローバー、ハート、ダイヤの剣が消え去った。

「はっ!異空間を転送する魔法は障壁を越えられん!!」

「その通りじゃ!!」

「何だと!?」

ピエモンは驚愕に目を見開いた。
トランプソードは、近右衛門とエヴァンジェリンが全く動く事なしに防がれたのだ。

「馬鹿な!?どういう事だ!!」

「簡単さ、障壁は空間を歪ませる。異空間から現実世界に戻す為の扉を開くには、歪みが邪魔で障壁の外に出てしまうのさ!!」

ニヤリと笑いながら解説するエヴァンジェリンに、ピエモンはニヤリと笑い返した。

「なるほど、説明感謝しますよ」

そう言うと、ピエモンはトランプソードを次々に周囲に出現させた。

「私のトランプソードは一つずつではないのですよ!喰らいなさい!!」

その瞬間、トランプソードの大群は、近右衛門とエヴァンジェリンに向けて凄まじいスピードで飛来しだした。

「な!?なんだこの数は!?サングルゥモンのスティッガーブレイドの比ではないぞ!?」

エヴァンジェリンは驚きながら、氷塊を作り出した。
だが、その氷塊もまるでクリームを裂くかの様に斬られてしまった。

「馬鹿な!?」

「ぬお!!」

エヴァンジェリンは急いで近右衛門を掴むと、まだトランプソードに覆われていない真下の地面に全速力で向い、トランプソードが届く寸前に、ナイフの大
群から遠くの位置に影を使い転移した。

「ほう、貴女も転移が出来るのですねぇ。面白くなってきましたよぉ!!」

言うと、ピエモンは凄まじい数のトランプソードをまるで花が開くかのような美しい軌跡を作り出しながらエヴァンジェリンと近右衛門に向けた。

「エヴァンジェリンよ!固まっていては拙い!!二手に分かれるぞ!!」

近右衛門の言葉に、エヴァンジェリンは怒鳴り返した。

「爺ぃ!!お前、転移は出来るのか!!」

すると、近右衛門はニヤリと笑うと「無論じゃ!」と言った。
その言葉に、エヴァンジェリンもニヤリと笑い返すと、凄まじい速度で近右衛門とエヴァンジェリンは反対方向に翔けだした。

「二手に分かれましたか、無駄な事を!」

ピエモンのトランプソードは、時速200kmを越える速度でエヴァンジェリンと近右衛門を追う。

「クッ!サングルゥモンのスティッガーブレイドとは質も量も違いすぎるな。これが…究極体か!!」

エヴァンジェリンが毒づく。
その間にも、ピエモンは更なるトランプソードを出現させていく。

「クハハハハハ!!私の銀華の舞いはどうですかぁ?美しくも華麗な攻撃!!どのような状況であっても美しい!!それが道化師と言う存在なのですよ
ぉ!!」

ピエモンの不快な笑い声が周囲に響く。
その時、近右衛門は左にピエモンを視界に入れると、左手をピエモンに向けた。
その瞬間、凄まじい破壊の閃光がトランプソードを吹き飛ばし、ピエモンに向った。

「なんですと!?」

ピエモンは間一髪で避けると、忌々しげに近右衛門を睨み付けた。

「ほっ!儂の圧縮した光のサギタ・マギカ1000本をアッサリ躱しおるか」

近右衛門も憎憎しげな表情をしながら、空中を翔けていたのを地面に着地すると、大地に立つと、両手を広げ、大きく呼吸をすると、開いた両手で気合
の掛け声と共に空間に衝撃を与えた。

「ハッ!!!!」

その瞬間、途轍もない圧力の空気の壁が、次々にトランプソードを落としていった。

「フ、フフフ、フハハハハハハ!!実に楽しませてくれますねぇ」

忌々しげな笑みを浮かべながら言うピエモンに、その直ぐ背後からエヴァンジェリンが迫った。

「ならもっと、楽しませてやる!」

その瞬間、エヴァンジェリンは走りながら唱えた呪文を完成させた。

「『凍る大地』!!」

凄まじい冷気によって、ピエモンは即座に離脱しようとしたが広範囲を凍らされ、逃げ切る事が出来なかった。

「全ての命ある者に等しき死を!!」

トドメの呪文をエヴァンジェリンが唱えると、ピエモンは両手から雷光の帯を発生させた。

「エンディングスナイプ!!」

その瞬間に、凍る大地は一瞬にして蒸発した。

「馬鹿な!?」

そこに、近右衛門がピエモンに迫る。

「『輝く極炎』!!」

エヴァンジェリンの魔法にピエモンが捕われている隙に呪文を完成させた近右衛門は、至近距離から光と炎の合成魔法を発動させた。
凄まじい輝きを持つ豪炎は、ピエモンを呑み込むと凄まじい大きさに膨れ上がった。
一瞬でお互いに反対方向に退避した近右衛門とエヴァンジェリンは、すぐに次の呪文の詠唱を開始する。
この程度で終わる筈が無いと理解しているからだ。
そして、その考え通り、無傷なピエモンが高笑いをしながら上空に姿を現した。

「クハハハハハハ!!本当に愉快ですねぇ。貴方方は人間の枠を超えている!!」

そう言いながら、無数のトランプソードを出現させていくピエモンに、エヴァンジェリンと近右衛門は超上級呪文を発動する。

「喰らうが良い!!『神の雷』!!!」

「少しは怯めよ?『白夜の女王』!!!」

近右衛門が放ったのは対軍勢用の広範囲魔法である『千の雷』を超圧縮した光速で飛来する、対城レベルの魔法だった。
そして、エヴァンジェリンが放ったのは、絶対零度の冷気の塊。
掠るだけでも原子分解を引き起こす、超上級魔法だ。
だが、それをピエモンは薄く笑うと、軽やかに避けてしまう。

「残念ですねえぇ。ですが、そんな技が本気でこの私に効くと思ったのですかぁ?」

嘲笑うピエモンに、近右衛門とエヴァンジェリンは同時に邪悪な笑みを浮かべた。

「喰らえ!!」

「喰らうが良い!!」

「「『神雷の氷柱』!!!!!!!」」

凄まじく緻密な魔力操作によって発動した二つの魔法は、互いに共鳴し合い、一つの魔法に生まれ変わった。
凄まじい雷光を纏う、凄まじく巨大な氷の柱が、ピエモンを呑み込んだ。

そして、一つとなった魔法は、近右衛門がピエモンが抜け出さないように抑える役目を担った。

「いくぞ!!全ての命ある者に等しき死を!!!!」

「やれ!!エヴァンジェリンよ!!!!」

近右衛門が凄まじい力で『神雷の氷柱』を押し返すピエモンを全力で抑えながら叫んだ。

「其は、安らぎ也。『おわるせかい』!!!!!」

『神雷の氷柱』の魔力が爆散していく。
その破壊力によって、周囲は一瞬にして平地になってしまった。
コンビニの在ったショッピングエリアが消滅したが、これでピエモンも死んだ。
そう、近右衛門とエヴァンジェリンは思ったが、次の瞬間に、背筋の凍る笑い声が響いた。
その方向を見ると、全身がボロボロになりながらも宙に浮くピエモンの姿が在った。

「馬鹿な!?」

エヴァンジェリンは絶句した。
そして、ピエモンはそれまで以上の凄まじい殺気を放ちながら凶悪な笑みを浮かべた。

「もう、十分楽しめました。これにて終幕にしましょう」

そう言って、天を覆い尽くすほどのトランプソードを展開した。

「無駄じゃ!!その技は既に儂らには効かんぞ!!!!」

近右衛門の言葉に、ピエモンは凄惨な笑みを浮かべた。

「それならば、これならどうです!!!」

すると、なんと全てのトランプソードが消えてしまった。

「消した?…いや、まっさか!!!!!!!」

エヴァンジェリンは恐怖に青褪めた。

「そうです!!!私はトランプソードを見えないようにする事が出来るのですよぉ!!!!」

近右衛門とエヴァンジェリンは絶句してしまった。
不可視の状態であんな数の攻撃を防ぐ事など不可能だ。

「死になさい!!!!」

ピエモンがそう叫んだ瞬間、エヴァンジェリンと近右衛門は死を覚悟した。
その瞬間だった、見覚えのある閃光が迸ったのは。







それは、ほんの少し時間を遡っての話だ。
寮の部屋で、何も話さずにただ、戦っている者達の無事を祈り続けていたイルゼ達だった。
そして、突如さよの心の中に、声が聞こえてきたのだ。

『…よ。…よ。さ…よ』

突然の事に、さよが木乃香とイルゼを見渡すと、イルゼは首を傾げた。

「どうしたんだ?」

イルゼの問い掛けに、さよは答えた。

「声が…」

「声?」

と木乃香が聞いた。

「うん…。あ、また!」

『さよ…。さよ!』

「レオモン!?レオモンなの??」

さよは周囲を見渡しながら叫んだ。

「違う、さよさん!念話や!!心の中で呼びかけるんや!!」

木乃香は自分達に聞こえない声が聞こえたと言うさよにそう言った。
そして、さよは眼を閉じると心の中で、レオモンに呼びかけた。

『レオモン!!レオモン!!』

『さよ!私だ、頼みがある!!』

さよの呼び掛けに、レオモンは答えて言った。

『なんでも言って!!無事なの?レオモン!!』

さよは必死に心の中で叫ぶと、レオモンの声が響いた。

『ああ、大丈夫だ!!だが、このままでは拙い!!近右衛門殿やエヴァンジェリン君が死んでしまう!!頼む!!いきなり、前は自分から断っておきな
がら虫がいい話だとはわかっているが!!私のパートナーになってくれ!!』

レオモンはそう言った。
その言葉に、さよは瞳から涙を溢れさせた。
イルゼと木乃香はそのさよの様子に心配気に見つめたが、何も言わなかった。
邪魔するべきではないと悟ったからだ。

『なる!!なるよ!!私は、レオモンのパートナーになる!!!』

その魂の叫びに、突然、さよの眼の前に閃光が走った。

『ありがとう、さよ!!』

レオモンの言葉を聞きながら、さよは空中に浮かぶ木乃香のとは色違いのデジヴァイスを手に取った。

「デジヴァイス!?」

イルゼは驚愕に眼を見張った。
そして、木乃香は言った。

「さよさん!グリップを握って!!」

その言葉に、反射的にさよは答えてデジヴァイスのグリップを握った。
そして、さよの体から木乃香やエヴァンジェリンほどではないが、凄まじい量の魔力がデジヴァイスに流れ込んだ。

「レオモン!!!!!」

その叫びと共に、遠く離れた戦場での瓦礫の下から、閃光が迸った。





デジヴァイスの力がレオモンに届いた瞬間、レオモンの体は光に包まれた。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

そして、レオモンは魂の叫びを上げた。

「レオモン!!ワープ進化!!!!」

完全体を飛び越え、歴戦を戦い抜いた獅子は、その強靭な魂と、誇りを胸に、究極対へとワープ進化を遂げた。
彼の視線の先に浮く、数多の人間を食し、力に変えた外道への怒りを爛々と瞳に宿し、それまで多くの凶悪なデジモンを倒し蓄えていた力が、デジヴァイ
スによって解放されたのだ。
黄金の鬣と、鋭く伸びる長い牙。
王者の風格を持つ、百獣の王。
その巨大な肉体は、4階建ての校舎よりも巨大だ。
そして、新たな名を叫ぶ。



「サーベルレオモン!!!!!!!」




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