第36話『調査』


連休も終わり、イルゼは何時ものように授業を受けている。

「じゃあ、イルゼ君!この問題はわかるかなぁ?」

女の算数の先生。
名前は弥栄恵美子。

麻帆良も、他の学校とは変わらずに授業毎に先生が違うという事はない。
だが、副担任と言うシステムはある。
弥栄は1-A,1-Bの副担任なのだ。

やる事は、基本的に担任の手伝いと、一科目だけ実際に教鞭に立つことだ。

弥栄は、今年の春に、葛葉刀子(24)と源しずな(20)と共に新しく赴任して来た先生だ。
葛葉がキツメの美人で、源が柔和な美人なのに対して、可愛らしい容姿をしている。
教師の中では三人にお熱な男性教諭が多い様だ。

ちなみに、葛葉は西洋魔術師の男性と結婚し、関西から移転して来たのだ。

未だに、詠春が下の者達から西洋魔術師との確執を取り除けないで居るようだ。

木乃香とイルゼの二人は、詠春、麻耶、妙、刹那に日曜日に必ず手紙を出すようにしている。
内容は普段何をしているかや、修行の内容についてが殆どだ。

刹那は、妙と麻耶が神鳴流の英才教育を行っているらしい。
時折、神鳴流の一、二を争うほどの強さを誇る女性も修行を手伝いに来てくれるらしい。

現在は剣の基礎や、戦闘の心構え、精神の修行が主だそうだ。
詠春は、咸卦法と呼ばれる技術も習得させたいと考えているらしい。

手伝いに来ていた現在は婚約中で後数年で入籍しようと考えているらしい青山鶴子が、妹を後継者にしようと鍛える傍らで、必死に修行する刹那に好感
を持ち、口を挟んだのだ。

二刀流に咸卦法、刹那の修行の道は長く険しいようだった。

詠春も、現在は仕事の合間に鍛錬を欠かさずにしているらしい。
僅かな期間に、勘を取り戻すためか、時折青山鶴子と結界内で組手をしているとの事だ。
刹那や鶴子の妹で、今年から中学生になった素子は、二人の戦いを見て、その後に鶴子から、「ここまで仕上がってもらうで?」と言われ、絶望しかけた
らしい。

二人の戦いの痕は、木々は消し炭になり、大地は蹂躙されつくし、一層分、他の場所よりも地面が低くなってしまっていた。
結界も半壊し、結界師達の苦労が耐えないと言う。

イルゼは、手紙の事を思い出しながら、黒板の問題を見て、立ち上がると口を開いた。

「3です!」

「はい!良く出来ましたぁ。それじゃあ、次は不破君!」

イルゼが見事に『1+2=?』の問題を解くと、弥栄は優しく微笑みながら褒めて、今度は不破に当てる。

「うぅん。え?あ、うん。5です!」

悩んだかと思うと、そう答えた。

「はい!正解よ。イルゼ君も不破君もいいわよぉ!」

先生は笑顔でそう言うと、授業を進めていった。



瞬く間に時間は過ぎていき、お昼の時間になった。
イルゼは宇喜田、フェイ、久保と席を合わせ、教室の前ので給食当番が給食を盛り付ける列に三人と一緒に並んだ。

イルゼは大好物のビーフシチューを見ると、盛り付けをしている手塚に小声で、「大盛りで頼む」と頼んだが、「全員同じ量だ」と冷たくあしらわれてしまっ
た。

フェイが、「僕の分、少し上げようか?」と聞いてくれたが、さすがにイルゼも「大丈夫だよ、さんきゅ」と丁重に断った。

給食を食べながら、イルゼは口を開いた。

「なぁ、宇喜田と久保は麻帆良の七不思議って知ってるか?」

イルゼの質問に、ビーフシチューを食パンに浸けて食べようとしていた宇喜田は目を丸くした。

「七不思議?」

「ああ、俺とフェイと学はミス研に入ってるだろ?」

イルゼの言葉に、宇喜田も久保も頷いた。

「もしかして、ミス研の活動かい?」

久保が聞くと、イルゼは「ああ」と頷いた。

「今、第一の不思議を調べてるんだけど。中々糸口が見つからなくてさ」

イルゼが肩を竦めると、久保は口を開いた。

「それは、第一の不思議が何かっていう話かい?それとも、第一の不思議の謎がわからないのかい?」

久保の質問に、「後者」だとイルゼは答えた。

「なんでも、女子中等部のAクラスに、35年も変わらずに同じ生徒の席が置いてあるらしいんだ。名簿にも載って」

イルゼの言葉に、宇喜田は信じられないと言う表情でフェイに「本当?」と聞いた。

「本当だよ。事実として存在しているのは確かめられたの」

フェイと話せた事が嬉しかったのか、宇喜田は顔を赤らめながら、嬉しそうに「へぇ」と言った。

「なんて名前なんだい?」

久保が聞くと、イルゼは答えた。

「相坂さよって言うんだ」

「ふぅん、何年生のAクラスなの?」

「今年は一年らしい。周期的に三年間を一つのクラスで一緒に進級してるらしいんだ」

イルゼの言葉に、久保は「不思議だねぇ」と言った。

「どうして先生達はそんな事をしてるのかなぁ?」

久保の疑問に、イルゼは「それがさぁ」と言った。

「先生達にも聞いたんだよ。相坂さよの話」

「そしたら?」

「分からないだってさ。俺達が聞くと、先生も初めて気付いたみたいな反応をするんだ。それに、何度もループして、名簿に載っているって言っても、そん
な事あるわけないってさ」

イルゼの言葉に、宇喜田は疑問を挟んだ。

「でもさぁ、その話が確かなら記録とか残ってるんじゃねえの?」

宇喜田が言うと、フェイは首を横に振った。

「それがね、記録に残ってないの。ただ、同じクラスになったって言う人達の何人かがクラスの名簿に載ってたって証言しているの」

フェイの言葉に、久保は首を捻った。

「わからないなぁ、どういう事なんだろう…」

久保が「うぅん」と唸っていると、教室に矢部が入ってきた。
矢部は周期的に四人毎に分けてある給食の班を回って一緒に食べるのだ。
ちなみに、今週はイルゼ達の班で、宇喜田が矢部の分も先生用の生徒と同じ机を運び、イルゼが給食を持ってきていた。

「やぁ、どうしたんだい?難しい顔をしているね?」

矢部が席に座りながら言うと、イルゼは「そうだ!」と言って口を開いた。

「なぁ先生。女子中等部のAクラスの相坂さよって知ってる?」

その瞬間、一瞬だけイルゼの目に矢部の表情が強張ったのを感じた。

「先生?」

それが、フェイにも分かったのか、心配気に矢部を見つめている。
すると、矢部は「あ、ああ」と言いながら口を開いた。

「その相坂さんと言う子の事がどうかしたのかい?」

矢部が聞くと、久保が口を開いた。

「なんでも、イルゼ君の入っているミス研で麻帆良の七不思議を調べてるそうなんです」

「七不思議?」

矢部が首を傾げると、宇喜田が言った。

「その第一の不思議が、その相坂って子の事らしいんです」

矢部は「何が不思議なんだい?」と聞いた。

「それがさぁ、クラ…調べたら1960年から、その相坂って子の名前が、ある周期のAクラスの名簿に必ず載るようになったらしいんだ。席も移動しないで」

「………」

イルゼの言葉に、矢部はしばらく押し黙った。

「なぁ、先生ならなんか知らないか?」

イルゼが聞くと、矢部は「そうだね」と少し考えるように言った。

「面白い話だと思うけど、確証はあるのかい?」

矢部の言葉に、イルゼは「ああ」と答えた。

「記録には残ってないけど、今年の名簿にもちゃんと載ってるし、相坂さよの中学校時代の写真も見つかったんだ。それに、一緒のクラスだった人が、一
度も卒業まで会わなかった事を不思議に思って、友達に話たって言う証言が幾つかあるんだ」

矢部は感心したように口を開いた。

「よく、調べたね。そう言う、少しでも不思議や疑問に感じた事調べるのはいい事だよ。だけど、残念ながら私は聞いたことが無いな」

そう言う矢部に、イルゼは「そうか…」とガッカリしたように言った。
すると、矢部は「ふむ」と言った。

「それにしても、他の不思議は何があるんだい?七不思議と言うからには他にもあるんだろう?」

矢部の質問に、イルゼは「おう」と答えた。

「第二の不思議・異界の鏡、第三の不思議・語らずの赤マント、第四の不思議・合せ鏡の回廊、第五の不思議・血のバレンタイン、第六の不思議・裏鬼
門の封印。そんで、七番目は分かってないんだ」

「分かってない?他のはどうやって調べたんだ?」

宇喜田が聞くと、フェイが答えた。

「あのね、先輩が図書館島で見つけた本に書いてあったの。それで、今回の活動は麻帆良の七不思議を調べる事になったの」

「一つだけ、聞いたことがある」

矢部は口を開いた。

「え?」

イルゼが目を丸くして驚いた。

「合わせ鏡だよ。昔から、二枚の鏡を丑の刻に向かい合わせにして、その間に立つと、その者は呪われてしまうって言うね。日本中の学校で流行った怪
談話だね。他のは聞いた事が無いけどね」

「残念ながら」と言って、矢部は自分のビーフシチューを啜った。

「他の学校だとどんな七不思議があるんですか?」

と久保が聞いた。

「そうだねぇ、トイレの花子さんは有名だったね。女子トイレの一番奥で、『はぁなこさん遊びましょう』って言うと、女の子の声で『はぁい』と答えが返ってくる
って言うのだよ。他には、走る二ノ宮金次郎象なんてのもあったなぁ」

「走るの!?二ノ宮金次郎象が??」

矢部の話に、宇喜田は驚いたように聞いた。

「二ノ宮金次郎象って?」

イルゼが聞くと、宇喜田が答えた。

「昔の勉強大好きだった人の像だよ。なんでも、学業の象徴だからって色んな学校に置いてあるんだ。薪を背負いながら勉強している象なんだけど…走
る姿は想像できないや」

「確かに、シュールな光景しかイメージ出来ないね」

クツクツと笑う矢部に、イルゼは「他には何かないの?」と聞いた。

「そうだねぇ、他には動く人体模型や、夜に音楽室のベートーベンの絵からベートーベンが抜け出してピアノを弾くって言うのもある。怖い話だとメリーさん
って言うのもあったね」

「メリーさん?」

矢部の話に、フェイが首を傾げた。

「そう、とっても怖い話なんだ」

矢部がもったいぶる様に言う。

「聞かせてよ先生!」

宇喜田が不満気に言うと、イルゼも「聞かせてくれよ先生!」と言った。
久保とフェイも興味深深な様子だった。
矢島は「やれやれ」と苦笑した。

「でも、今はもうすぐ給食の時間が終わっちゃうから、聞きたかったらお昼休みに教室に残っていたら聞かせてあげるよ」

矢部の言葉に、イルゼ達はハッとなって周りを見ると、もう皆が片付けに入っていた。

「やっべぇ!!」

イルゼと久保、宇喜田、フェイは慌てて給食を食べた。

「こらこら、慌てて食べるとお腹が痛くなっちゃうぞ」

矢部の言葉が終わる頃には、既にフェイ以外は食べ終わっていた。
それから、しばらくしてご馳走様を手塚と給食当番が前に出て言う頃に漸くフェイも食べ終わって、皆と一緒に片づけをして、教室に残った。

イルゼが誘って、興味を覚えた手塚、零弦、葵、アーダルベルト、学、李、不破も残った。

そして、教卓の前に椅子を運んで矢部が興味津々に聞く生徒達に話し出した。

「これは、ある少女とお人形のお話なんだ」

そう、矢部は切り出した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

少女はメリーと名前をつけて、父親が買ってくれた西洋人形を大切にしていた。

病気がちだった少女にとって、人形のメリーはたった一人のお友達だった。

寝る時には本を読み聞かせ、同じ布団で眠る。

食事の時でさえ、少女はメリーを手放さなかった。

毎日の様に、本当の人間を相手にしているかの様にメリーに話しかける娘を心配した親は、早く病気を治す為に海外の病院を探した。

少女の患っている病気はとても珍しく、治療できる医師は一握りに過ぎなかったのだ。

だが、幸運な事に、少女の病気を治せる医者が見つかった。

ドイツの病院に勤務する医師だった。

そして、少女は両親に連れられてドイツの病院に引っ越した。

その時に、少女はメリーを誤って、引っ越す前の家に置いてきてしまった。

嘆き悲しんだ少女を、両親は必死に励ましながら、少女の治療の為のお金を必死に稼ぎながら、少女の完治を待った。

そして、見事に病気が完治した少女は、日本に戻ってきた。

少女は病気がなくなり、外で人間の友達と遊べるようになった。

いつしか、少女はメリーの事を忘れてしまった。

そして、少女が大きくなり、都会で一人暮らしをする事になった。

そして、会社に就職し、上司に昔住んでいた家の近所に仕事で行くように言われた。

そして、泊まりの仕事となり、ホテルに部屋を取った彼女は、仕事に行き、帰ってくると、突然電話の着信音が鳴り響いた。

彼女が受話器を取ると、電話の向こうから幼い少女の声が聞こえた。

最初は、あまりに小さい声で聞き取れず、彼女は聞き返した。

すると、幼い少女の声は言った。

『アタシ、メリーさん。今、貴女が住んでいたお家に居るの』

彼女は受話器を取り落としてしまった。

その拍子に通話が切れ、再び着信音が鳴り響いた。

ゴクリと唾を飲み込みながら、彼女は震えながら受話器を拾うと、通話ボタンを押した。

すると、同じ声で今度は…。

『アタシ、メリーさん。今、タバコ屋の角に居るの』

そして、電話は切れた。

彼女の額から嫌な汗が滲んだ。

記憶の通りだとすれば、それは彼女の昔の家から今居るホテルまでの間に、確かにタバコ屋があったのだ。

そして、再び着信が鳴った。

『アタシ、メリーさん。今、貴女の居るホテルの前に居るの』

彼女は顔を青褪めさせた。

そして、急いで荷物をまとめると、部屋を出ようとした。

すると、再び着信音が響いた。

震える手で、通話ボタンを押すと、同じ声が言った。

『アタシ、メリーさん。今、貴女の部屋の前に居るの」

そして、部屋の扉を突然、ガンガンと叩く音が聞こえた。

彼女は悲鳴を上げながら部屋の奥に逃げた。

すると、音が止み、再び電話が鳴った。

そして、取ってもいないのに、スピーカーから声が聞こえてきた。

『アタシ、メリーさん』

そして次の瞬間、彼女の背後から…。

「今、貴女の後ろに居るの」

と聞こえた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「と言う話だよ」

矢部の話が終わると、ちょうど昼休み終了のチャイムが鳴り、全員が肩をビクッとさせた。

そして、宇喜田は顔を引き攣らせて言った。

「は、はは…。た、大した事無い話だったな!!」

それに、イルゼも大いに顔を引き攣らせながら答えた。

「ま、まったくだぜ!!全然大した事無かった!!」

それにアーダルベルトも頷いて。
その顔は、額から流れる汗で僅かに塗れていた。

「ははは…。まったくだ。まったく怖くなかった!!」

その様子を見ながら、手塚と学は眼鏡をキランッ!と輝かせ、ソッと、学はイルゼの、手塚はアーダルベルトの肩を優しくポンッと叩いた。
すると…。

「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」

とイルゼ。

「ヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!」

と宇喜田。

「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

とアーダルベルト。

「ふえええ!!」

と可愛く悲鳴を上げるのはフェイ。

「はははは、いやぁそんなに怖がってもらえるとはね。ほらほら、そろそろみんなも帰ってくるから椅子を片付けて」

そう言いながら、矢部はクツクツ笑ってイルゼ達に椅子を片付けさせた。
その顔は、期待以上の反応に満足気だった。

「べ、別に怖く無かった!!」

イルゼが言うと、学はニヤニヤしながらイルゼの肩ポンポン叩いた。

「大丈夫、木乃香ちゃんには言わないで上げるよ」

その時の学に抱いた気持ちは、決して殺意じゃなかったとは言い切れないイルゼだった。




放課後になり、フェイと学と共に、イルゼは部室に向った。

「それにしても、ププ…イルゼがあんなに怖がるとはね」

学はイルゼの悲鳴を思い出しては笑ってくるのでイルゼは顔を大いに引き攣らせていた。

「うるせぇ!!何時までその話引っ張る気だ!!」

イルゼが怒鳴るが、学はニヤニヤするだけだった。

「むっかつくなぁ」

顔を引き攣らせながら言うイルゼに、フェイは「まぁまぁ」と宥めようと試みた。

「学君もあんまり意地悪しちゃ駄目だよ」

フェイに言われてようやく学も「ちゃぇ、面白かったのに」と言いながら止めた。

そして、部室に入ると、既に全員が集合していた。

イルゼ達が入ると、それぞれ挨拶していたイルゼ達に部長の秀がプリントをイルゼ達に手渡した。

「これは?」

イルゼが聞くと、秀が言った。

「これは、現在の調査状況についてのレポートだ。まぁ、あまり進展は無いがな。クラスターを呼んでくれ。少し、データを纏めてこれからの動きを決めよう
と思う」

秀の言葉にイルゼは頷くと、PCに向ってパスワードを叫んだ。

「コギト・エルゴ・スム!」

すると、画面が光だし、クラスターがスリープモードから起動した。

「おはようございます。イルゼ、みなさん」

「おはようクラスター」

イルゼは挨拶を返した。

そして、千里がPCにフロッピーを挿しこんだ。

「これは、七不思議の調査状況ですね?」

クラスターの質問に、秀が「そうだ」と答えた。

「余り進展していないがな」

秀が頭を掻きながら言うと、クラスターが提案をした。

「現在は、相坂さよについて調査しているようですが、霊体として目撃された場所を調査するのはどうでしょうか?」

クラスターの突然の提案に、全員が一様に驚いた。

「確か、今年は1−Aのクラスで、後は、コンビニだったか?」

秀が言うと、クラスターは「そうです」と答えた。

「相坂さよの霊を見たと言う情報は、中等部校舎から僅かな距離にあるコンビニと、彼女が在籍しているクラスだけです」

すると、桃色髪の武藤姉弟の双子の姉である蓮が、首を傾げた。

「なんでコンビニなんスかねぇ?」

蓮の言葉に、イルゼも「確かに」と言った。

「なぁクラスター、その理由もわかんねぇかな?」

イルゼが言うと、クラスターは「データを参照しています」と言った。
そして、しばらくすると口を開いた。

「幾つかの情報を統合した結果、一つの推測が出来ます」

「教えてくれ」

秀が言うと、クラスターは言った。

「恐らく、相坂さよの生前の性格によるものと思われます」

「どう言う事?」

学が聞くと、クラスターは答えた。

「恐らく、彼女は夜の校舎に恐怖を覚え、深夜でも明るいコンビニに身を寄せているのだと考えられます。この情報は、彼女と生前に親しくしていた女生
徒が、彼女が生前は怖がりだったと証言しています」

そのクラスターの言葉に、蓮の弟であり蒼髪の嵐が口を開いた。

「つまり、生前怖がりだったから、夜になると怖いからってコンビニに非難してるって事?なんか、まるで意思があるみたいだなぁ」

嵐の言葉に、フェイが首を傾げた。

「あるみたいってどういう意味ですか?」

フェイの言葉に、嵐は「だって、そうだろ?」と言った。

「普通は霊って意思とかなさそうな感じじゃん。時々聞く話でもそうだし、相坂さよって子だって、何十年も同じ場所に居続けるなんてさ、意思があったら絶
対に嫌になるよ」

フェイは「なるほど」と納得したが、クラスターは否定した。

「いいえ、恐らくは相坂さよには明確な意思があるように思われます。恐らくは理性や、凡そ普通の人間同様の精神を有していると考えられます」

「どういう事だ?」

イルゼが聞くと、クラスターは説明を始めた。

「相坂さよは、普通の地縛霊とは大きく異なっています。以前に、地縛霊は強い執着を持つ超能力者が成ると説明したのを覚えておられますか?」

それにイルゼが「ああ」と答えた。

「相坂さよは何か違うのか?」

秀の言葉に、クラスターは「はい」と答えた。

「通常は、地縛霊になるほどの執着と言うのは、殺人により殺され、憎悪を見に宿したり、早くに死に、残した者に対し執着を抱くなどが考えられます」

「何が言いたいんだい?」

嵐が言うと、クラスターは言った。

「通常の地縛霊は、執着した物、者からは離れられないのです」

「…、確かに妙っスねぇ。相坂さよはコンビニまで動いてるんスから」

蓮が首を捻ると、秀はクラスターに「どういう事かわかるか?」と聞いた。

「相坂さよは、死んだのは入学したばかりの高等部の校舎でした。ですが、現実に居るのは中等部です。この事により、少なくとも相坂さよは死によるこ
の世の執着は持っていないと考えられます」

「という事は、残してしまったナニカか?」

イルゼの言葉に、クラスターは「そうです」と答えた。

「相坂さよは、中等部時代に特に仲良くしていた五人の級友がいたそうです。そして、その五人は当時、高等部には進級しなかったそうです」

クラスターの話に、学は自分の中で繋がった考えを言った。

「もしかして、その五人を待っているのかい?」

学の言葉に、クラスターは「恐らくそう思われます」と答えた。
それに、イルゼは首を捻った。

「どういう事だ?待っているって」

イルゼの疑問に、学は「いいかい?」と口を開いた。

「その五人は高等部に上がらなかった。だけど、相坂さよは上がった。中が良かったのに。そして、彼女は死んだ高等部じゃなくて中等部に残っている事
から、その五人の誰か、もしくは全員への思いによるモノの可能性が高いと思う。ここからは推測だけど、五人は何処かに行っていたんじゃないかと思
う。相坂さよは五人がその何処かから五人が帰ってくると信じているんじゃないかな?だから、何時までもそこに残っている。中等部に…。そして、離れら
れるのは、特に五人が帰ってくる場所が教室だと言う考えが強くても、他の場所にも帰ってくるかもしれない。その考えを持っていると仮定したら。校舎か
ら離れる事が出来るのも頷けると思うんだ」

イルゼは、学の説明を聞き、クラスターに視線を向けた。

「なぁ、その五人の情報は無いのか?」

すると、返ってきた言葉は否定だった。

「わかりません。五人の級友と特に仲が良かったと言う情報は残っていたのですが、その個人に関しての情報だけは綺麗に抹消されていました。それ以
上ですと、レベル4のセキュリティーが掛けられているので調査は不可能です」

クラスターの言葉に、イルゼ達はガックリと肩を落とした。

「なら、その頃のクラス名簿は無いか?」

「御座います。ですが、何人かのデータが抜け落ちています」

秀の言葉に、クラスターはそう答えた。

「なに?」

秀は眉を顰めて聞き返した。

「どういう事だ?」

「データは、何者かによって抹消された可能性があります。そして、一つだけ手がかりが御座います」

「教えてくれ」

「近衛近右衛門と矢部雅彦です」

「は?」

クラスターの言葉に、イルゼと学、フェイは絶句してしまった。
そして、後ろで黙っていた亜里沙が口を開いた。

「学園長とイルゼ達の先生か?」

「そうです。彼らの生年月日が、丁度相坂さよと同じ年であり、この学園の生徒だった可能性が高いと判断されます」

クラスターの言葉に、学は待ったをかけた。

「待ってよ!矢部先生と学園長は全然歳が違うじゃないか。百歩譲っても、学園長はともかく、矢部先生は生まれてない筈だ。幾らなんでもあの見た目で
70過ぎなんてありえない!」

学の言葉に、イルゼとフェイも頷いた。

「矢部雅彦、並びに近衛近右衛門に関してはレベル4のセキュリティーが存在しています。彼らに関しては謎が多くそ…ん…ざざ…い………し…ま」

そこで、唐突にクラスターの電源が落ちた。
そして、突然、輝夜がどこからかナイフを取り出すと、扉に投げつけた。
そして、その瞬間に、世界は真っ白になった。
最後にイルゼは、大人の人影を二つ見た。
そして、意識を手放した。




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