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第25話『エヴァンジェリンの魔法講座T〜禁断魔法と修行開始〜』
広大な敷地の中央に、エヴァンジェリンは木乃香とイルゼを連れて来た。
木乃香とイルゼが居るのは三人の部屋の押入れから空間回廊が繋がっている修行場だ。
麻帆良学園の敷地内にあるが、あまりに強力な結界が張ってあるので一般人はおろか、魔法関係者ですら進入は不可能だ。
ちなみに、元エヴァンジェリン邸であったログハウスは、この一瞬間の内にこの修行場の片隅に移動された。
エヴァンジェリンが離れた事で結界を張って護っていたが、転移魔法の準備が整い、移動したのだ。
未だ太陽が昇りきっていない時間で、エヴァンジェリンの目の前で、イルゼが木乃香の前に立ち、木乃香がデジヴァイスを構えている。
そして、木乃香がデジヴァイスのグリップを握り締め、魔力がデジヴァイスを通してイルゼに流れ込む。
体からナニカが抜け落ちていく感覚を感じ、木乃香はそれが自分の持っているデジヴァイスに向っているのを感じた。
そして、イルゼの体が光の粒子に包まれ、デジヴァイスの画面の中で光が、渦を巻き、イルゼの耳にどこかで聞いた事があるような不思議な声が聞こえ
てくる。
通常のデジモンは進化すればその姿が固定される。
だが、イルゼは元の姿に戻る。
故に、その感覚が余計に不思議でどこか暖かく感じるのだ。
そして、デジヴァイスの画面の中で光る文字が浮き出て、機械の様な音声が聞こえた。
『Evolution』
イルゼの視界が閃光に包まれ、目が眩み、次の瞬間に、サングルゥモンの姿となってどこかの古城を思わせる空間に居た。
「サングルゥモン!!!グオオオオオオオオ!!!!」
イルゼ、サングルゥモンの雄叫びで、空間に亀裂が入り、世界が壊れた瞬間、サングルゥモンは元の世界に戻ってきた。
獰猛な刃物の爪、蝙蝠の兜、残忍な牙。
サングルゥモンが光から現れると、エヴァンジェリンは「よし」と言った。
「それでばあちゃん、進化して何をすればいいんだ?」
サングルゥモンが聞くと、エヴァンジェリンはサングルゥモンに近づき、サングルゥモンの鼻の頭を撫でた。
「少し気になっていたことがあってな」
エヴァンジェリンはそう言った。
「気になる事?」
と木乃香。
イルゼがくすがったそうにするのが面白いのか、鼻を撫でたまま首を傾げる木乃香に説明した。
「うむ、サングルゥモンは木乃香の魔力で進化したり技を放ったりしているだろう?」
エヴァンジェリンの言葉に、木乃香は頷いた。
「そこで不思議に思ってな。木乃香、サングルゥモンへの魔力供給を止められるか?」
エヴァンジェリンの言葉に木乃香は首を傾げた。
「でも、そしたらサングルゥモンが元に戻ってしまうんとちゃうん?」
木乃香の言葉に、エヴァンジェリンは首を横に振って答えた。
「私の考えが正しければ、サングルゥモンは元に戻らない筈だ」
ニヤリと笑うエヴァンジェリンに木乃香は「わかったえ」と答えて、デジヴァイスに流れる魔力を集中して操ろうとした。
だが、エヴァンジェリンが確かめたかったのはサングルゥモンの事だけではなかった。
魔力が自動的に流れるのを意図的に遮断するのはかなりの高等技術だ。
6歳の少女にやれと言って出来る事ではない。
だが、エヴァンジェリンは木乃香がどのくらいのレベルで魔力を操れるのかを確かめたかったのだ。
そして、エヴァンジェリンの思惑はいい意味で裏切られた。
エヴァンジェリンは目を見開いてその様子を見守る。
魔力は19世紀に科学者であるドイツのカール・フォン・ライヘンバッハが人間の内から生み出される魔力をオドと名付けた。
そして、太平洋の島嶼で見られる原始的な宗教において、神秘的な力の源とされる力をマナと名付けられた。
オドは魔力が通る血管や神経とは違うラインと言う物を通る。
その操作は熟練したものでもかなり難しい。
だが、木乃香はラインを通る魔力を制御しているのだ。
天才と言う言葉だけで片付けられない現象に、エヴァンジェリンは知らずに戦慄が走った。
この歳でこれほどの力を持つ魔法使いなど現在過去未来に置いて存在しただろうか。
木乃香はこのままいけば、魔力量も唯でさえ極東最強と呼ばれているのに更に上がる事だろう。
そして、その力を完全に支配下に置いて制御出来るならば、魔法使いが到達できる極みを見られるかもしれない。
エヴァンジェリンが知る限りで、魔法を本当の意味で極めた魔法使いは希少だ。
時を極めたマーリン。次元の狭間に穴を開け、魔法世界の創造の一端を担ったアブドゥル・アルハザード、原初のアダム・カドマン、錬金の秘奥である
『賢者の石』の創造者ニコラ・フラメル、あらゆる『人』の母を守護した偉大なる者とされたシモン・マグス。
期待をしなかった訳ではないが、ほんの一年程度最低限の符術しか教えられていない目の前の少女の才覚に、エヴァンジェリンは知らず空恐ろしいモノ
を感じてしまった。
木乃香は魔力を水道管を閉めるようなイメージで絞り、最後に繋がりを完全に解いた。
だが、サングルゥモンの姿は変らずにそこにあった。
だが、サングルゥモンはどこか苦しげだった。
「よし、木乃香。もう一度魔力を送ってみろ」
エヴァンジェリンに言われ、木乃香は閉じていた魔力の流れを自然と開放した。
「ふぅ、なんか凄く体が重くなった気がしたよ」
サングルゥモンは疲れたようにそう言うと、エヴァンジェリンは「やはりな」と言った。
「イルゼ、お前は恐らく自分でもマナを取り込む事が出来ているようだ」
「マナ?」
エヴァンジェリンの言葉に、イルゼは首を傾げた。
「そうだ。魔力とは大きく分けると二種類あってな。19世紀に科学者であるドイツのカール・フォン・ライヘンバッハが人間の内から生み出される魔力をオ
ドと名付けた。簡単に言うと、サングルゥモンには無いが、私や木乃香が持っている魔力の事だ。そして、太平洋の島嶼で見られる原始的な宗教におい て、神秘的な力の源とされる力をマナと名付けられた。空気中や、木や石、この世のありとあらゆる物に存在する魔力、それがマナだ。サングルゥモン は、イルゼの時に木乃香の魔力無しに技を使えるだろう?」
エヴァンジェリンの質問に、サングルゥモンは「ああ」と答えた。
「だが、威力は小さい」
サングルゥモンは再び頷いた。
「それは、恐らくはサングルゥモンが取り入れて自分でデジモンの力に変換できる絶対量が少ないからだと思ったのだ。だが、木乃香の魔力供給に完全
に頼りっきりでは木乃香に負担が掛かりすぎる上に、木乃香がいない状況での戦闘はかなり厳しいだろう。お前の修行はまずはマナを出来る限り取り込 めるようにすることだ。技を磨くのはその後だ。ある程度自分の力だけで戦えるようになったらいい練習相手がいるからソイツと戦闘訓練をし、最終的に 木乃香との連携戦闘の訓練をしていく。これが、お前の修行の方針だ」
エヴァンジェリンが言うと、サングルゥモンは頷いた。
「わかったぜ。でもばあちゃん、具体的にどんな修行をすればいいんだ?」
サングルゥモンの質問に、エヴァンジェリンは「うむ」と一呼吸置いて説明しだした。
「まずはマナを実感する事からだ。それから自分からマナを取り込み、デジモンの力に変換できる量を上げていく。具体的には只管に座禅をして瞑想を
しながら空気中の異質な力を感じ取れるようにするのさ。それじゃあ、進化を解け」
エヴァンジェリンの指示に従い、サングルゥモンはイルゼに戻った。
そして、エヴァンジェリンは木乃香に視線を移した。
「イルゼを少し離れた所に連れて行く、木乃香の修行を見て集中力を散漫にしては意味が無いからな。少し待っていろ」
そう言って、イルゼを引き連れて広場の右側の森の中にある道を進んだ。
十分ほど歩くと、小さな茶室のような場所があった。
「ばあちゃん、ここは?」
イルゼが聞くと、エヴァンジェリンは右手の人差し指を上げて説明を始めた。
「ここは特別にマナが多く飛び交うように設定した結界が張ってあってな。この茶室の中で只管座禅をしながらそれらを掴み取るんだ。いいか?無心にな
るんだ。心を無にして、他の事を考えずに自分が自然の一部だと考えるんだ。…まぁ、口で言っても仕方がない、とにかく今日と明日、は只管ここで座禅 だ。いいな?」
エヴァンジェリンの言葉に、イルゼは「うえぇ」と嫌そうな声を発したが頷いて茶室に入って座禅をした。
「悪いが、私は木乃香を見なければならん。木乃香を護ると誓ったのならばその覚悟を示してサボらずにやるんだぞ」
そう釘を刺すと、エヴァンジェリンは離れていった。
イルゼは思っても見なかった修行に溜息を吐いたが、エヴァンジェリンの言葉に顔を引き締めて静かに呼吸をしながら目を閉じた。
エヴァンジェリンが木乃香の元に戻ると、木乃香はイルゼの事を聞いた。
「問題ないだろう。すぐには出来ることじゃないから時間は掛かるがな。恐らく来月くらいにはマナを少しくらい感じられるようになるさ」
普通なら一ヶ月程度では無理だろうが、あの結界内はマナが豊富だから感じるだけならばそう時間は掛からないだろうとエヴァンジェリンは考えた。
そして、エヴァンジェリンは木乃香に向き直ると、「さて」と話し始めた。
「木乃香、お前に最初に教えるのはシングルアクションの魔法だ。これを…」
そう言って、エヴァンジェリンは細長い木箱を木乃香に差し出した。
木乃香がドキドキして取り上げて蓋を開けると、中には焦げ茶色の細長い杖が入っていた。
「それは由緒正しい杖作りが作ったお前の魔法資質、身長や体重、性格からありとあらゆる情報を基にお前専用に調整された物だ。32.5cmの学園内に
ある世界樹の枝を特別に爺ぃが材料に提供し、魔法生物が開放されている異世界の炎のエリアのフェニックスの尾羽を使用している」
「魔法生物!?」
木乃香は、エヴァンジェリンの説明の中で一つの単語に目を丸くした。
「ああ。木乃香、魔法世界については少し話したな?」
それは、水曜日の事だ。
魔法世界の成り立ちは、魔女狩りで迫害され、ある高名な魔法使いがアブドゥル・アルハザードのアルハザードのランプと言う次元を超える伝説クラスの
宝具を使い、生命の存在しない世界を掘り当て、そこに魔法使いの魔法使いによる魔法使いのための世界を作ったのだ。
ちなみに、このアルハザードのランプは別にアルハザードが作った者ではない。
アドと呼ばれた部族の秘奥であったソレを、アルハザードが所有していた事からその名が付いた。
アルハザード自身もレベル10の魔道書『ネクロノミコン』を執筆し、『狂えるアラビア人』の二つ名で呼ばれた最強レベルの魔法使いだった。
ネクロノミコンは開いた者を狂気に落とすとして、厳重な結界の中に保存されている。
「アルハザード言う人のランプで誰も居いへん世界を見つけて開拓したんよね?」
木乃香の回答にエヴァンジェリンは満足そうに「その通りだ」と答えた。
「魔法生物世界はそれよりも更に古い時代に、魔法生物達が跳梁跋扈していた時代に、偉大な魔法使い達が、人間の世界と魔法生物世界を二分にし
たのさ。ちなみに、悪魔や鬼は魔法生物の中でも人に近く、穢れているとされて別の世界に分断された」
木乃香は「ほえぇ」と言いながら話の続きを待った。
「魔法生物世界は許可が無ければ入れない所でな、中々に面白い生き物がたくさんいる。そう言った生物を管理する職業の魔法使いも居る。魔法生物
の捕獲者ハンターや魔法生物の退治者バスター、魔法生物を監視するウォッチャーなんかがそうだ。奴らは特別な魔法を使用するのが多くてな。謎に 包まれている部分が多い。昔、一人のバスターに会った事があったがあるが、奴らは普通の魔法使いとは考え方が違ってな、私を吸血鬼だと知っても気 にすることなく迫害された私を助けてくれた事が在ったよ」
懐かしむようにエヴァンジェリンは言った。
「バスターの魔法は自分の魂を武器として具現化する。体系で言えばガンドの魔術に近いな。自分の魂を切り取って扱う部分でだが。かなり強力だが、
奴らは自分の考えでのみ行動するから魔法世界よりも魔法生物世界で永住する者も多いくらいだ」
木乃香はエヴァンジェリンの話に聞入っていた。
「魔法生物は、確か部屋に近右衛門が用意した書籍の中にニュートン・アルテミス・フィド・スキャマンダーの『幻の生物とその生息地域』に詳しく乗ってい
る。魔法生物世界はこの世界と地理的には全く同じといっていい。まあ、人間が改造してしまった地形は改造される前の地形だがな。ドラゴンなんかは時 偶に魔法使いがゲートガーディアンとして使う時がある。この前、茶道部に来た近右衛門の奴がもうすぐアルビレオ・イマがやって来るんだが、体を酷く 損傷してしまったらしく、ゆっくりと体を休めるために麻帆良の図書館島の地下深くにあるという封印の部屋にドラゴンで扉を護らせて滞在する事になると 言っておった。…奴には色々と聞きたい事もあるんだが体の修復の為に数年またねばならん…」
そこまで言って、木乃香が首を傾げているのに気が付いた。
「ああ、アルビレオ・イマはお前の父、近衛詠春と同じくサウザンドマスター、ナギ・スプリングフィールド率いるNGO団体『悠久の風』内の『紅き翼(アラル
ブラ)』に所属していた性格の悪さで右に出るもの無しのどぐされ外道魔法使いだ」
「ど、どぐされ?」
エヴァンジェリンが憎しみすら篭った口調で言った言葉に、木乃香はとんでもなく凶悪そうな海外ドラマの犯罪者を思い浮かべた。
「ちなみに、ドラゴンはバスターの人間が連れてくる。話を聞かせてもらえるように、爺ぃに言ってあるから期待しておけ、魔法使いの中でも中々に骨のあ
る連中だ。バスターは固有の組織があってな。ギルドに登録しているんだが、今回はワイバーン種のドラゴンで封印の部屋の前の空間に放たれるそうで 中々に巨大らしいからな。かなりの実力者が来るだろうさ。確か、ギルド名は『ルークの騎士団』とか言ったな。バスターのギルドは大概リーダーの名前 に騎士団がつくのさ」
木乃香はエヴァンジェリンの説明にワクワクして眼を輝かせると、「あれ?」と疑問の声を上げた。
「おばあちゃん、バスターは魔法生物を退治するんよね?」
「そうだが?」
「なら、普通は連れて来るんは捕獲するハンターやないん?」
木乃香の鋭い質問に、エヴァンジェリンはニッと笑いかけた。
「いい質問だ。鋭いな、実はハンターは捕まえるまでが仕事なんだ。それからの管理は主に退治屋のバスターと観測者のウォッチャーの仕事なのさ。どう
してかって?ハンターは捕まえる事に特化した魔法体系でな、どうしても捕まえた後に管理するには戦闘力が足りないのさ。そこでハンターの出番だ。捕 まえるのではなく倒す事に主眼を入れているハンターだからこそ、暴れる魔法生物を鎮圧できる。ハンターの魔法は結界術や封印術、状態異常系の魔 法が多いからな」
それで木乃香も納得した。
「バスターかぁ、イルゼもきっと喜ぶえ」
嬉しそうに言う木乃香に、エヴァンジェリンは頬を綻ばせた。
近右衛門にバスターの話を聞く機会を作れと言ったのは正解だったようだ。
と言っても、近右衛門も最初っからそのつもりだったのだろう。
アルビレオが来る事を教えるのもそのついでだったのかもしれない。
どちらにせよ、アルビレオと話すのは大分先の話になりそうだしな、そう考えていると木乃香が物思いに耽った顔をしているのに気が付いた。
「どうした?木乃香」
エヴァンジェリンが少し心配そうに聞くと、木乃香は「うんとなぁ」と言って口を開いた。
「うちらの居る世界以外にもたくさん世界ってあるんやなぁって思って…。今、うち凄くドキドキしてるんよ」
エヴァンジェリンは熱に浮かされたような口調で言う木乃香に、ふっと笑いかけた。
「ああ、今分かっていて実際に転送魔法で行けるのはわかっているだけで魔法使いの作った魔法世界、魔法生物が開放されている魔法生物世界、悪魔
達が封印されている魔界、鬼が住んでいる霊界。他にもわかっていないだけで数多くの世界があるからな。ちなみに、魔法世界なんかに行く為の転送魔 法の原型はアルハザードのランプだ。次元世界を垣間見て実際に進入出来るアルハザードのランプの研究によって今の次元転移魔法が開発された。 アルハザードのランプは本当に凄まじい物でな。現在は研究をする事を許されずに魔法世界の地底深くに封印されている」
「?どうして?」
木乃香の疑問に、エヴァンジェリンは「いいか?」と話を続けた。
「アルハザードのランプの危険性が明らかになったのさ」
「危険性?」
「そう、アルハザードのランプは並列する数多の世界を行き来するだけではなかったのさ」
「どういう事なん?」
「いいか?アルハザードのランプは平行世界への介入すら可能なのが証明されてしまったのさ」
エヴァンジェリンの言葉に、木乃香は首を傾げた。
「平行世界?」
「ああ、平行世界は…簡単に言うとパラレルワールドの事だ。もし、あの時あの選択をしていたらどうなっただろう?そんな感じにな」
「えっと、それって今うちが右手を上げるかそれとも左手を上げるかって事?」
木乃香の勘の鋭さに、エヴァンジェリンは舌を巻いた。
「その通りだ。よく理解出来たな。その通り、あらゆる人間の選択一つ一つが今のこの時間を作っている。だが、それは無限に世界が枝分かれしている
のさ。それこそ、一秒よりもさらに細かい、刹那以上の短い時間毎に無限に枝分かれしてな。分かるか?これに介入できるアルハザードのランプの危険 性が?」
すると、木乃香は「うぅん」と唸りながら考えるが今一つ答えが導けなかった。
「つまり、平行世界に入り込んでしまうと、二度と元の世界に帰れないのさ。昔、実験をしてな。一人の人間がアルハザードのランプを通り違う平行世界に
行った。その瞬間に、何が起きたと思う?」
ドラマチックな口調でそう聞くエヴァンジェリンに木乃香は首を横に振って「何が起きたん?」と聞いた。
「世界が滅びたのさ。その人間が行った後にな。元々、世界にはある一定の既定値があるんだ。人間や石ころの一つに至るまで、その存在していい値
がな。質量保存の法則、エネルギー保存の法則、それらが、その世界に突然現れた人間によってエントロピーが拡大してエネルギーが膨れ上がり、世 界が崩壊してしまったんだ。同じ世界に居ていい人間はその世界に存在した過去を持つ未来人くらいな者だ。まったく同じ時間軸に同じ時間を生きる者 が来た瞬間に、世界は崩壊する。だからさ、アルハザードのランプ、そして平行世界への介入に関する魔法の研究は危険レベルMAX、つまりは研究した 瞬間に、その場で死刑を求刑されるレベルの大犯罪なんだ。ちなみに、実験で平行世界に行った人間の代わりは自然界が勝手に補完したらしい。突 如、新しい新種の生き物が連続で発見されてな。それが後の研究で実験で消えた男分のエネルギーの代替物だと分かった。増えれば消滅、消えれば 補完。余りに恐ろしい魔法なんだ。ちなみに、似た理由から死者蘇生も危険レベルMAXに指定されている。死者が蘇生すると、その瞬間に、死んだ人間 分、自然界に放出されたエネルギーがその復活した者によって同じエネルギーが同じ世界に存在する事で対消滅をしてしまってな。反物質と同じだ。少 しでも衝撃が加わっただけで少なくとも核を10ダースばら撒いたような結果を誘発する。そうだな、説明しておくか。木乃香、この世界には研究する事を 許されない許されざる禁断魔法が五つあるんだ。その一つが、平行世界への介入。二つ目は死者の蘇生。理由はさっき言ったな?他にも、マザーと呼 ばれる魔法がある」
「マザー?」
木乃香は聞き返した。
「そうだ、マザーは簡単に言うと、魔法によって人を生み出す魔法だ。科学技術のクローンや体外受精なんかとは違って完全に魔力によって生み出され
る人間を魔人と呼ぶんだが、その力は必ず強大な者として生まれるんだ。それこそ、生まれた瞬間に、世界の支配者になれるレベルの魔王と呼んでも 遜色ないとんでもない存在だ。まぁ、魔力だけで人間を作るのはほぼ不可能に近い技術だがな。ちなみに、似た者でホムンクルスってのがあるんだが、 これは科学と魔法の融合でな、これに関しては倫理上の問題で禁止されているだけで危険性は無い。かと言って研究すれば極刑レベルだがな」
木乃香はエヴァンジェリンの説明を受けて少し恐怖を覚えたが、エヴァンジェリンは話を続けた。
「四つ目は堕落の魔法だ」
「堕落の魔法?」
「そう、簡単に言うと、私の様な真祖の吸血鬼を生み出す研究だ」
「え?」
すると、エヴァンジェリンは悲しそうな響きを含ませながら語りだした。
「私はな、その堕落の魔法の一つである人間を真祖の吸血鬼に落とす魔法を掛けられたんだ」
「どういう…事?」
目を見開きながら、震える声で木乃香は聞いた。
「真祖はな、人間が人間の力で吸血鬼になった存在を指すのさ。それ故に、人間は軽蔑し、嫌悪する。何せ、自分達と同じ存在だったのが吸血鬼などに
自分から落ちたと言う意味だからな。真祖であるというのは…。昔の話だ、…いや、この話はまたいつかにしよう。長い話だ。それに、子供に聞かせる話 でもない」
そう言って、エヴァンジェリンは話を切った。
木乃香はどうしても聞きたかったが、エヴァンジェリンの瞳を見て、自分は踏み込んではいけないと悟った。
だから、悲しそうに呟いた。
「いつか…聞かせて欲しいで、おばあちゃん」
その言葉に、エヴァンジェリンは優しそうに目を細めた。
「ああ…いつかな」
そして、大きく息を吐いて、エヴァンジェリンは口を開いた。
「最後の5つ目の魔法は存在魔法」
「存在?」
「存在魔法は、簡単に言えば、人間をエネルギーに分解し、魔法に使うための動力源にすると言う下法中の下法さ。一昔前、外道に落ちた魔法使いは
ちょくちょく一般人を捕まえては溶解して実験や自分の魔法の動力源にしていてな。五番目の最大レベル禁断魔法に設定されたのさ」
「そんな…」
人を生贄にする、それを木乃香は嫌悪感で一杯になった。
「魔法使い、魔術師、呪術師、霊能者、陰陽師、色々な呼ばれ方をするが、魔に属する以上はそう言う存在も出てくるのさ。人間を構成するのは三つの
要素がある。体、魂、霊。これを人間の三態と呼ぶ。『体』、即ち肉体を支えるエネルギーをエーテル体。魂を表すアストラル体。そして、生命エネルギー や精神エネルギーを表す霊体。これらを分解すれば、一般人の人間一人でも魔力の少ない魔法使いが高位魔法を操れるほどだ。…まぁ、制御出来る かは別としてな」
そこまで話して、「さて」と話に区切りをつけた。
「そろそろ、今日の本題に入るぞ。まずは実際に杖を振ってみろ」
言われて、未だ木箱から杖を取り出していない事に気が付いた。
そして、木乃香は杖を取り出すと、突然、体の中を何かが通り抜ける感覚が走った。
とても暖かく、まるで体の一部かのように、杖が自分に馴染むのを感じた。
その様子に、エヴァンジェリンは満足げに頷いた。
「よし、キチンと杖に選ばれたな」
「杖に選ばれた?」
エヴァンジェリンが不思議な言い方をした。
「そうだ。説明するに当たって、杖…シングルアクション魔法に使う杖を杖と言って、始動キー魔法に使う魔法発動体は全て杖型も魔法発動体と呼ぶから
な」
その言葉に、木乃香は頷いて答えた。
「始動キー魔法とシングルアクション魔法の最大の違いはここにある。元々、シングルアアクション魔法よりも始動キー魔法が発展したのはシングルアク
ション魔法を使うには専用の魔法発動体である杖に選ばれなければならんのだ」
「どういう事なん?」
「杖は、謎が多くてな。一説には、芯として使われる魔法生物の一部が、持ち主を認めなければ力を貸さないぞと言う意思を持っているだとか、杖自身が
命を持ち、持ち主を選別するとか言われている。杖に選ばれるには使い手自身の体に一番馴染む長さ、木の種類、魔法生物を選ぶ必要がある。その 為にお前の情報を詳細に伝えて今を生きる数少ない杖職人にオーダーメイドしたのさ」
木乃香は「ほえぇ」と言いながら自分の手にある杖をまじまじと見つめた。
「それじゃあ、基本的なモノから始めるぞ?」
エヴァンジェリンが「いいか?」と聞くと、木乃香は若干緊張しながらも確りと頷いた。
「まずは、簡単な最低レベルの属性魔法を使ってみるか。木乃香、杖を前に向けて軽く振りながらイグニスと唱えてみろ」
エヴァンジェリンの指示に、木乃香は頷いて杖を何も無い空間に向けて振った。
すると、杖に魔力が流れるのを感じて、木乃香はその流れに自分の魔力を委ねて呪文を唱えた。
「イグニス!火!」
すると、杖先から小さな炎が噴出して消えた。
「いいぞ!まさか最初っから使えるとはな!」
エヴァンジェリンは優秀な生徒に歓喜した。
「よし、今度はアクアだ」
「うん!」
再び、木乃香が杖を振り上げ呪文を唱えた。
「アクア!水!」
すると、ビュッとコップ一杯程度の水が杖先から飛び出した。
「よしよし!!優秀だ。今度はトニトゥルスだ」
エヴァンジェリンに喜ばれて嬉しくなり、木乃香は張り切って杖を振り上げた。
「トニトルス!!かむなり!!」
すると、杖先からブシュッと音が鳴り、小さな黒い煙が出るだけだった。
「あ、あれぇぇ」
分かり易いくらい失敗だったので木乃香は困惑したように情けない声を上げた。
「ふふ、気を落とすな。杖を振り上げすぎなのさ。呪文の発音も確りしないとな。杖は力まずに軽く振るんだ。そして、呪文はトニトゥルスだ。トゥルだぞ。も
う一回やってみろ」
エヴァンジェリンに励まされ、今度は力まないように軽く振った。
「トニトゥルス!雷!」
すると、今度は杖先から緑色の光がバチバチと鳴りながら弾けた。
「よし!よしよし!いいぞ木乃香!火・水・雷は完璧だな!今度はベンタスだ」
「うん!」
木乃香は喜色満面で、でも杖を振り過ぎないように気を付けて振って呪文を唱えた。
「ベンタス!風」
だが、結果はあまありよく分からなかった。
「ん〜?出来たんかなぁ?」
「ふむ、少し分かり難いな、地面に向けて唱えてみろ」
エヴァンジェリンの指示に木乃香は頷いて杖を地面に向けた。
「ベンタス!風!」
すると、今度は地面の雑草が大きく振るえ風が杖先から巻き起こっているのを確認できた。
「出来たで!おばあちゃん!」
「ああ、いいぞ木乃香!!」
エヴァンジェリンは木乃香の頭を思いっきり撫でた。
目を細めて喜ぶと、木乃香は今までの符を使った、どこか他人任せだと感じていた術と違い、自分だけの力で魔法を使ったと言う充実感に暖かい感情
が心を満たすのを感じた。
「よし、今度は地の魔法のテアラ・フォッサムだ。これが出来れば五大要素を操れるのを確認できる」
木乃香が頷くのを確認すると、エヴァンジェリンは「いいか?」と口を開いた。
「地面に向けて唱えるんだ。テアラとフォッサムは区切るんだぞ」
エヴァンジェリンは頷いて地面に杖を唱えた。
「テアラ・フォッサム!地面を掘れ」
すると、魔力が突然杖に勢いよく流れ出し、杖先に魔力が集中した。
「まずい!!すぐに魔力供給を切れ!!木乃香!!」
エヴァンジェリンの焦った声に驚き、一気に杖に流れる魔力を引き絞った。
すると、木乃香の魔力の塊が地面に向って飛び出した。
「くそ!!」
エヴァンジェリンは形振り構わずに木乃香を全力で引っ張り上げ、障壁を可能な限りの魔力を篭めて展開した。
近右衛門の計らいによって、この修行場ではエヴァンジェリンの魔力が別荘ほどではないにしろ半分近く戻っている。
だが、木乃香の魔力の塊が地面に到達した瞬間、凄まじい閃光が周囲を照らし、激しい爆音が木霊した。
幸いだったのは、魔力が地面を掘るという方向性を持っていたことだろう。
およそ、完全に破壊のちからを篭められていたらと想像すると、エヴァンジェリンは寒気がした。
視線の先で、土煙が消え去った後に、凄まじい深さの大穴が前方に展開していたのだ。
そして、同時に自分の愚かさに毒づいた。
木乃香が連続で魔法を成功させるので調子に乗ったのだと自覚した。
エヴァンジェリンは木乃香に五大要素の魔法の基礎を使わせて五大要素の魔法がどういう性質かをわからせるつもりだった。失敗しても、見本を見せる
つもりだったのだ。だが、調子に乗り、火・水・風・空(雷)と最低レベルの呪文を使わせたと言うのに、地の呪文は制御が難しいと知りながら難易度の少 し高い魔法を使わせてしまったのだ。地の系統の魔法は他の五大要素の魔法と違い、地属性の物質を出すだけと言うのが難しいのだ。
土にしろ金属にしろ、それは物質の構造を理解して初めて作り出せる高位呪文となってしまうのだ。
故に、地の魔法は見本を見せるだけに留めるべきだったのだ。
下手をして、木乃香を死なせでもしたらと思うとゾッとした。
別に、それで罰を受けるのが怖いわけではない。
木乃香を亡くしたら自分の中の何かが折れる気がしたのだ。
エヴァンジェリンは、障壁を解くと、後ろを振り向いた。
すると、木乃香は怯えきった目をして自分の手を見ていた。
そして、自分の放った魔法の威力に恐れを抱いた。
そして、森の方から全速力で走ってくるイルゼの姿があった。
「何があったんだ!?」
イルゼが森を出ると、目の前の巨大で深い穴を見て絶句した。
何があればこんな真似を出来るのだろうか?
凡そ、自分が完全体になっても同じ事が出来るか疑問だ。
イルゼが視線を周囲に向けた。
木乃香とエヴァンジェリンの安否が気になったのだ。
すると、視線の先で、エヴァンジェリンと木乃香を発見し、茶室からここまで走ってきて心臓がバクバクと跳ねるのも構わずに駆け出した。
「大丈夫か!!」
イルゼが叫びながら近寄ると、エヴァンジェリンは自己嫌悪に陥りながら「ああ」と答え、木乃香も肩を震わせ、目を見開いたままイルゼの顔を見ずに掠
れた声で「うん」と答えた。
穴は木乃香の目の前に直径50m、深さは全く分からない程だった。
木乃香の足元には杖が落ちていて、木乃香の服もエヴァンジェリンの服も泥だらけだった。
「すまん…木乃香」
歯を食いしばりながら謝るエヴァンジェリンに木乃香がギョッとした。
「何で?」
震えた声で木乃香が口を開いた。
「何で謝るん?」
すると、エヴァンジェリンは歯噛みしながら項垂れて答えた。
「調子に乗ってしまった。地の系統呪文の制御の難しさなど分かっていた筈なのに…。下手をしたら木乃香は死んでしまっていた…」
手を血が出るほどの力で握り締めながら言うエヴァンジェリンに、木乃香は「ちゃう!!」と叫び、立ち上がろうとしたが、腰が抜けたのか立てなかった。
「ちゃうよおばあちゃん!!」
「私は…駄目だ…、こんなザマで師匠など…」
歯を食いしばり顔を歪めてそう言うエヴァンジェリンに、木乃香は立てないのを諦め、這いずりながらエヴァンジェリンに抱きついた。
木乃香の温もりを感じ、エヴァンジェリンは目を見開いた。
「おばあちゃん、自分を責めんといてや。うちの事信じてくれたんやろ?うち、おばあちゃんの期待に答えられんかった。悪いんはうちや。せやから…」
そこまで言って、エヴァンジェリンは「違う!」と血相を変えて木乃香に顔を向けた。
「お前は悪くは無い。…すまん、取り乱して見っとも無い所を見せたな…」
そう言うと、エヴァンジェリンは体に強化魔法を掛け、木乃香をお姫様抱っこで持ち上げた。
「イルゼ、そろそろ昼も過ぎた頃だ。一端戻るぞ。…もっと、キチント修行のメニューを考えるよ。済まんな木乃香…」
木乃香は「ううん」と首を横に振り、イルゼは無言で頷いた。
そして、三人が寮の部屋に戻ると、木乃香とエヴァンジェリンは風呂に入り、イルゼが昼食に食堂で弁当を作ってもらいに行った。
食堂は新学期になり一年生も利用できるようになり、イルゼ達は未だ利用した事がなかったが、イルゼが弁当を頼むとすぐに暖かくて美味しそうなソース
カツ弁当を作ってくれた。
それを部屋に運ぶと、ちょうどエヴァンジェリンと木乃香の二人が風呂から出て、エヴァンジェリンも木乃香も、午後の修行の為に動きやすい半ズボンと
Tシャツというラフな姿だった。
二人は風呂場で温まったおかげでさっきのショックが緩和されたようだった。
イルゼが心配そうにしているのを見て二人はニッコリと笑いかけて安心させた。
「午後はイルゼはまた座禅だ。朝に何か掴めたか?」
エヴァンジェリンの質問に、イルゼは首を振った。
だが、エヴァンジェリンも予想をしていたのか「そうか」とだけ言った。
「木乃香は、とにかくアクアの呪文で魔力の操作の修行だな。水系統なら私の氷の魔法で制御もできるし、火や雷なんかとは違って触っても危険は無い
からな」
エヴァンジェリンの言葉に、木乃香は確りと頷いた。
カツ弁当でお腹を満たすと、三人は満足気にお腹を摩った。
しっかりと腹ごなしをした三人は修行場に戻り、イルゼは茶室に戻って座禅を続けた。
そして、エヴァンジェリンは、木乃香が掘ってしまった大穴を時間を掛けて元に戻していった。
戦闘に特化した始動キー魔法とは違い、制御が難しく、緻密の魔力操作が必要で、専用の杖を持たなければならないシングルアクション魔法は、代わり
にヴァリエーションが豊富でこう言った状況では非常に役に立つのだ。
「ヒューマス・クラウマス!地面よ閉じよ!」
エヴァンジェリンの吸血鬼の血肉がエヴァンジェリンの魔力を呪文と共に魔法が完成し、魔法の光がエヴァンジェリンの手から溢れ出した。
地面が凄まじい地響きを上げながら徐々に閉じていく。
半分とはいえ力の封印を軽減されている状態であっても、巨大な穴を塞ぐのは大仕事だった。
木乃香がエヴァンジェリンの眉間から溢れ出す汗を拭いながら、たっぷり一時間掛けてようやく穴は塞がり、それから予定通りに魔法の修行に移った。
「アクア!!水!!」
何度もアクアを使い、僅かに出る水の量を微調整する修行だった。
一気に出る水の量をちょうどコップ一杯になる程度の魔力だけを篭めて発動するというもので、木乃香は梃子摺りながらも少しずつ感覚を掴んでいっ
た。
結局、捨てた水でバケツ20杯分程度も練習をして魔法の修行は終了となった。
茶室にイルゼを迎えに行くと、イルゼは必死に何かを掴もうとしていた。
だが、それが雑念となる事を、エヴァンジェリンは敢えて言わなかった。
座禅の修行は、自分で掴まなければならないからだ。
他人の感覚を知れば、それが邪魔をして自分の感覚が余計に分からなくなってしまうのだ。
結局、日曜日も同じ修行で終わってしまった。
それから、三週間の間、日常生活ではイルゼは主にフェイと学、それに仲良くなった亜里沙と共に部室で過ごし、夜は学とフェイと共に、木乃香とエヴァ
ンジェリンとフェイの作る料理を食べ、男女に別れて風呂に入り、エヴァンジェリンの魔法講座を木乃香とイルゼが受けて、日曜日と休日の第四土曜日と 祝日の第五土曜日は只管同じ修行が続けられた。
イルゼはなんとなく空気の違和感はわかるようになったが、マナをしっかりと感じる事は出来ず、木乃香も魔法の緻密な操作の修行で一杯一杯となって
しまった。
そんなある時の事だった。
四月もその日で終わりとなる日曜日にエヴァンジェリンのログハウスの中を、木乃香の提案で掃除する事になったのだが、危険な者もあるのでエヴァン
ジェリンが中心に指示を飛ばして物を運んでいると、一体の人形と、古ぼけた魔法の記録媒体が見つかったのだった。
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