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第15話『麻帆良学園一日目・前編』
朝日が登り、カーテンの隙間から零れた日差しが麻耶の顔に当たった。
「んん…、もう…朝?」
目を擦りながら枕元に置いておいたPHSのデジタル時計を見ると、7時を過ぎていた。
学園長との約束はお昼過ぎの2時ごろ、麻耶はその前に学園内を子供達と回るつもりだった。
だが、昨晩は寝たのが深夜遅くだったので寝かせたままで居間のテレビを着けた。
朝のニュースは、二十日に起きたどこぞの教団の事件一色だった。
「はぁ、最近は物騒やわぁ…」
ニュースは発砲事件なども報じており、東京にしばらく居た身としては背筋の凍る話ばかりだった。
それから、ゲストでミスチルが出ており、新曲のシーソーゲームを歌い、麻耶は興奮して音量を上げてしまい、その音で木乃香とイルゼが起きてきてしま
った。
「ううぅぅん、麻耶姉ちゃんテレビの音でかすぎだぞぉ」
眠い目を擦りながら居間と寝室との扉を開けながらイルゼが文句を言った。
「あ…、ごめんなぁ、ついミスチルが出おるとテンション上がってもうて…」
麻耶は顔を赤くして俯いた。
「麻耶さんミーハーやわぁ」
寝起きで何故かテンションの高くなっている木乃香はケタケタと笑い声を上げた。
「まだ寝とってええで?見学に行くのも10時くらいのつもりやし」
「うぅん、起きちゃったからこのまま起きてるよ」
「うちも」
「それじゃぁ、ご飯にしましょか?」
「うん!」
「はぁい!」
麻耶はテレビのリモコンを机に置くと、本棚に挿してあった『麻帆良のグルメガイド!朝食編』を手に取った。
イルゼが適当にチャンネルを回していると、3番で色んなギミックで活躍する警部のアニメの再放送をやっていた。
「うおおお!!ガジェット警部じゃん!!これ見てからにしようぜ!!」
「まあ、お店もまだあんま開いてへんさかい、8時まではテレビ見ててええで」
イルゼの興奮した様子に苦笑しながらガイドブックを開き、モーニングメニューのある近場のお店を探した。
学校が始まっていないので、学食は登録してある人の分しか用意されていないのだ。
現在は春休み中だが部活動をやっている生徒も多く、その子供達の為に大概のお店は開店しているらしい。
和食メニューがメインの定職屋さんにオシャレなカフェレストラン、フルーツバーなんて言う変わったお店もある。
マックにモスもあるが、油の多い食べ物を朝から取るのは健康上よくない。
結局、幾つかのお店にイルゼの机に用意されていた舌を出してるコミカルな少年の絵の描かれている缶から赤ペンを抜き取りマークした。
それから顔を上げてテレビを見ると、女の子が警部にバレないように事件を解決して手柄を上げさせているという健気な場面だった。
木乃香はその場面に何かを夢想し、イルゼはガジェット警部の頭に載っている帽子の仕組みに興味しんしんだった。
「ガジェット警部、ガァジェ、ガァジェ!」
麻耶はエンディングの歌を二人で歌っている子供達を見ながらニッコリとしてガイドブックに再び目を通した。
エンディングが終わると、イルゼが再びチャンネルを回したが面白い番組がなかったようで、テレビの台の下のガラスの扉を開けた。
イルゼは幾つかのビデオを物色したが、多すぎて決められずにいると、木乃香が押入れの下の段から巨大な箱を持ち出した。
中にはスーパーファミコンが入っており、押入れの中には、発売している凡そ全てのタイトルがあった。
二人で出来る『スーパーボンバーマンV』のパッケージからカセットを取り出すとイルゼはスムーズにスイッチを押した。
修行中に兄弟子に教えてもらったのだ。
兄弟子の家でやったのはUだったが、一年前のに比べてグラフィックが綺麗だった。
「木乃香は白と黒どっちがいい?」
「え?えっと…うちは白かな?」
「ならこっちのコントローラーな」
そう言うと、イルゼは左に挿してあるコントローラーを木乃香に渡した。
「イルゼ詳しいなぁ」
木乃香は意外そうに言った。
「修行中にケンちゃん…兄弟子の人にスーファミやらせてもらったんだよ。前にやったのはUだったけどね」
「ほえぇ、なら頼りにしてるで、イルゼ」
ニッコリしながら言う木乃香にイルゼは親指を上げた。
「おう!」
それから、20分くらい永遠と木乃香が自爆をし続けて結局一面も進めなかったが、木乃香が楽しそうだったのでイルゼも特に不満はなかった。
麻耶はふと、昨日はお風呂に入れなかったことを思い出した。
「ああせや」
「?どうしたんだ?麻耶姉ちゃん?」
突然、手を叩いて立ち上がった麻耶にイルゼと木乃香は驚いた。
「昨日はお風呂入ってなかったやろ、この部屋にもお風呂あるんやから入ってから行こか」
そう言うと、麻耶は入り口近くにある真っ白な扉を開いた。
そして、綺麗な洗面所に感心しつつお風呂場の曇りガラスの扉を開いた。
すると、麻耶は目を点にして固まった。
「どうしたん?麻耶さん…?」
麻耶の様子に不安そうに近づきながら、木乃香とイルゼもお風呂を覗いた。
すると、なんと大理石の巨大な浴槽は大人が2人入っても大丈夫なくらい広く、洗い場も8畳くらいはあった。
巨大な窓が入り口から見て角に浴槽があり、その側面に合わせた長さと高さの窓がついている。
床には、滑らないように若干ザラついたタイルが敷いてある。
シャワーの下には高級そうな銘柄のシャンプー、リンス、トリートメント、コンディショナー、石鹸は当然のようにあり、何故か湯船の先にはもうひとつの扉
があった。
動き出した麻耶が扉を開けると、そこにはサウナルームまで存在していた。
それを見て麻耶は頭を抱えた。
「小学生の部屋にサウナルームを作ってどないすんねん…」
はっきり言えば危険だ。麻耶はサウナに鍵があるのを発見すると、しっかりと施錠した。
「お嬢様、イルゼ、絶対にこの部屋には入ったらあきまへんで」
有無を言わさぬ麻耶の言葉に二人はコクコクと頷いた。
それから、洗面所に戻ると改めて辺りを見渡した。
サウナのように若干危険な物があるんじゃないかと危惧したのだ。
洗面所には奥に洗濯機と洗濯籠があり、洗濯機の前には固定された台が置いてある。
お風呂場の扉の前には大きな鏡と収納だなが満載な洗面化粧台は薄い青で落ち着いた感じだ。
収納スペースも台の右下と左下に縦に二つずつと台の側面にガラスの棚がある。
右下の収納には、新しい歯ブラシと歯磨き粉、洗顔石鹸に化粧水が入っている。他にも化粧品類が入っていたのは麻耶が直ぐに廃棄した。
左下にはドライヤーとヘアアイロンが数種類あった。他にもピンやロールなどがたくさん見易いように配置されていた。
ガラスの棚には、左に小さなタオルが入っており、右にバスタオルが置いてある。
さらに、お風呂場の扉と洗濯機の間に二段の棒がついており、そこにもタオルがかけてあった。
入り口近く、恐らくはサウナのスペースだろう…、着替え用のラックが置いてあった。
昨晩確認した限りでは、洗面所の対面にあるトイレも過剰なほど最新設備が整い、綺麗で魔法による防臭なども完璧だった。
良く見ると、結界だけではない、カビが絶対に入らないように魔法がかけられている。
監視用の覗き魔法は隅から隅まで探して無いのは確信しているが若干の不安が残った。
溜息をつきながら着替えのラックの前で麻耶が口を開いた。
「近右衛門様…、はぁ、ほな入りましょか。イルゼも木乃香お嬢様もお洋服を脱いどって下さいね、うちは洋服を出してきますんで、先に入っとって下さ
い。ちゃんと体洗うまで湯船には入らんように」
「はぁい!」
二人の元気のいい返事を聞いてからガラスの棚からタオルを出そうとすると、ボディー用スポンジがあったので木乃香とイルゼに渡した。
それから麻耶は子供服と睨めっこすると、イルゼには今日は暖かいので高級ブランドのマークが左胸のポケットの所に刺繍されている半そでの白いポロ
シャツと白の短パンを用意した。
木乃香にはピンクに茶色のチェックの入ったバルーンスリープとツイードのレースの可愛いパッチワークスカートを用意した。
ソックスはそれぞれ白とピンクだ。
そこで、麻耶はふと玄関の靴箱を開けた。
そこにも予想通りの光景が広がり、疲れたように鞄から自分の着替えを取り出すと洗面所に向かった。
木乃香とイルゼは洋服を脱ぐと、そのままお風呂場に入りボディーソープのボトルを発見した。
「ボディーソープって体用の石鹸ってことかな?」
木乃香の疑問にイルゼはうぅんと首を傾げた。
そのままボトルの説明書を見ると、タオルかスポンジに垂らしてお使いくださいと書かれていた。
「多分そうだと思うよ」
そう言ってスポンジにボディーソープを垂らしてよく揉むとたくさんの泡が出た。
「わあ、いっぱい出るなぁ、うちにも貸してや」
「おう」
木乃香もスポンジに垂らし、よく揉んで泡を出した。
「んじゃとっとと洗って湯船入ろうぜ」
木乃香とイルゼはスポンジで体中を擦ると、背中をお互いに洗いっこしてから湯船に浸かった。
それからしばらくして麻耶も入ってきてすぐに体を洗い湯船に入った。
「やっぱ、子供用やと浅いなぁ…」
麻耶は胸の下辺りまでしかない湯に項垂れた。
「てか温くね?」
イルゼは不満そうに言った。
「しゃあないやん、入る前にスイッチ押したんやし、むしろ数分で湯が張っただけでも近右衛門様の爺馬鹿と魔法の偉大さを噛み締めなあかん!」
「確かに…」
「あはは…はは…」
幾らなんでも豪華すぎる部屋の内容にさすがにイルゼと木乃香も若干呆れていた。
それから、湯船から上がりもう一度シャワーを浴びてから服を着替えた。
壁に掛かっているディズニーの蜂蜜の壺を抱えた熊の時計が9時を刺していた。
麻耶が二人の髪の毛をドライヤーで乾かして木乃香の髪をブラッシングしてから玄関でイルゼと木乃香の新品のスポーツシューズを出して出発した。
エレベーターの前にはおでこの広い少女と前髪が顔を覆っている少女が一緒に立っていた。
「あれ?君達も今年から一年?」
背はイルゼと木乃香と同じくらいだった。
「?どちら様ですか?」
おでこの広いほうの少女が後ろを振り返った。
前髪の長いほうの少女は一瞬、肩を震わせた。
「俺、イルゼ=ジムロック。今年から一年だ」
それに倣って木乃香も挨拶した。
「うちは近衛木乃香言います。今年から同じく一年やねん、よろしくや」
おでこの広い少女はニッコリ笑いながら挨拶を返した。
「ご丁寧にどうもです。私は綾瀬夕映です。同じく一年です。こちらこそよろしくです」
すると、夕映と名乗った少女は後ろの前髪の長い少女にも促した。
「えっと…、私は…宮崎のどかです、同じく一年です。よろしくお願いします」
「夕映にのどかか、よろしく」
そう言うとイルゼは右手を差し出した。
その意図に気が付いて夕映は笑顔で握手した。
「うちもよろしく」
そう言うと木乃香がのどかと名乗った少女に手を差し伸べた。
「は、はい!こちらこそよろしくお願いします!」
のどかは顔を赤くしながら握手した。
「のどかは人見知りが激しいのです。私達はルームメイトで一週間前からここに住んでいるのです」
「へえ、なら先輩ってとこだな」
イルゼの言葉に夕映は得意そうに口を開いた。
「この辺りの事なら任せて欲しいです。既にのどかを連れていろいろと回ってみたです」
その言葉に、それまで子供達の会話に参加していなかった麻耶が口を開いた。
「ちょっといいかしら?」
突然、麻耶に話しかけられ、夕映は吃驚して目を丸くした。
「えっと…どちら様です?」
その言葉に麻耶はニッコリした。
「私は、この子達の付き添いで宮野麻耶。もし良かったらこの子達にここの案内をしてあげてもらえないかしら?」
麻耶の言葉に木乃香とイルゼも吃驚した。
「え?麻耶姉ちゃんは?」
「うちはちょっと先に学園長とお話して来ようと思うんや。夕映ちゃんとのどかちゃんだよね、…どうかな?」
麻耶の言葉に夕映はのどかを振り返った。
「私はいいと思うです。のどかはいいですか?」
のどかはコクンと頷いた。
「私もいいよ」
モジモジしながらも了承したのどかに夕映はニッコリとしながら麻耶に顔を向けた。
「大丈夫です」
「ありがとう、それじゃあ下までは一緒に行きましょうね」
「夕映ちゃん、のどかちゃん、ありがとうな」
「サンキュー」
木乃香とイルゼがニッコリと微笑みかけるとのどかも笑顔を返した。
エレベーターが上がってきて、夕映と麻耶がそれぞれの部屋の鍵を預けると麻耶は地図で確認し麻帆良学園本校女子中等学校にある学園長室を目指
した。
「お二人は朝ごはんは食べたのですか?」
「うんにゃ、朝風呂入って何か食べてから見学しようと思ってたんだ」
お腹を擦りながらイルゼが答えた。
「夕映ちゃんとのどかちゃんもまだなん?」
木乃香の質問に夕映がコクンと頷いた。
「ええ、それでご飯を食べようと出てきたのです。寮の食堂は、春休み前に言っておかないといけないらしいので学校が始まるまでは外食です。でも一年
生は学生証を見せればなんとどこでもタダで食べさせてもらえるのです!…といっても春休みの間だけですが」
「へえ…って、俺達未だ学生証もらってねえ…」
イルゼは顔色を悪くして言った。
「え?そうなのですか?」
目を丸くしながら夕映が言った。
「えっと…私達の学生証を見せれば…だいじょうぶだと…」
のどかの言葉にイルゼは困ったように笑った。
「ありがたいけどそういうのは無理だと思う。一応、麻耶姉ちゃんがお金渡してくれたからそれで食べるよ」
「二時に学園長室で待ち合わせやからお昼も食べたいんやけど…えっと…」
木乃香はポシェットから麻耶にもらったクマの形の財布からお金を取り出した。
「えっと…4千円あるから足りるかな?」
「お二人で4千円なら余裕ですよ」
夕映はニッコリと微笑んだ。
「えっと、イルゼ君と木乃香ちゃんはなにか食べたいの…ある?」
のどかの質問に木乃香はうぅんと唸った。
「朝はやっぱり和食…でも、洋風を食べるんも憧れなんやけど…うぅん」
「木乃香の家は和食オンリーだからな…」
苦笑しながら言うイルゼに夕映は疑問を投げかけた。
「ところで、お二人はどういったご関係なんですか?それにイルゼは日本人に見えるのですが…」
その質問にイルゼは首を掻きながら答えた。
「俺は親父がドイツ出身なんだけど、生まれも育ちも日本で母親が日本人なんだ。両親が早くに亡くなってな、木乃香の家に居候してたんだよ。まあ、関
係って言うと家族かな?」
「そやね、うちらは家族や」
イルゼが微笑みかけ、木乃香もニッコリと微笑み返した。
それに対して夕映はバツが悪そうな顔をした。
「すみませんでした…」
「ん?なにが?」
突然謝る夕映にイルゼは吃驚してしまった。
「知らない事とはいえ、無神経な質問でしたから…」
その言葉にイルゼは夕映に笑いかけた。
「夕映っていい奴だな。別に気にしなくていいぞ、詠春…木乃香の親父や麻耶姉ちゃんがいるし、木乃香もいるから寂しくねえしさ」
その言葉に夕映は安堵したように微笑んだ。
「ありがとうございます。あなたも優しい方ですね」
「俺の周りがみんな優しいからな。その影響だ」
ニカっと笑うイルゼに夕映もクスクスと笑った。
「なるほどです」
「それで、朝食の希望だったな…、やっぱ洋食がいいな」
イルゼの言葉に木乃香も賛成した。
「せやね、うちも洋食がええわ」
「それじゃあ夕映、レストラン・カワサキでいいよね?」
のどかの言葉に夕映は頷いた。
「そうですね、あそこは美味しいですしここからも近いですからね」
「レストラン・カワサキ?」
木乃香の疑問にのどかが答えた。
「ここから100mくらい先に麻帆良学園初等部駅前ショッピングエリアっていうのがあって、そこにある割と大きめなレストランです」
「駅前?」
麻帆良学園の周囲の学園都市は私有地だと聞いていたイルゼは首を傾げた。
「麻帆良は広いので私有地なのですが、埼京線が通っているのです」
「へえ、…あれ?」
その時、イルゼはふと、魔力を隠して電車に乗ってくれば侵入者来たい放題じゃないかな?と思ったがすぐにそこまで警備体制甘く無いだろうと頭を振っ
た。
「どうしたん?イルゼ」
「いや、なんでもないよ」
それから、他愛ない話をしながら四人はショッピングエリアに辿り着き、レストラン・カワサキを見つけた。
すると、眼鏡をかけた髪の長い四人と同じくらいの子供がレストランの前で立ちすくんでいた。
「おい…どうした?」
イルゼは恐る恐る話しかけた。
「?…えっと、君は?」
突然話しかけられて子供は首を傾げた。
「俺はイルゼ、イルゼ=ジムロックだ。今年から一年生でこの学園に来たんだ」
「僕も今年から一年で伊集院学だよ。実はお腹が空いたんだけどお財布を忘れちゃってね…。ちょっと呆然としていたんだ」
「学生証は無いのか?」
「ん?あるけど?」
そう言うと学と名乗った少年はポケットから学生証を取り出した。
「なら、一年は春休み中は学生証がありゃタダらしいから一緒に食べようぜ」
「ん?いいのかい?お連れさんがいるようだけど?」
そう言うと学はイルゼの後ろの三人を見た。
「うちはええで」
「私もいいですよ、のどかもよろしいですよね?」
「うん。私もいいですよ」
三人の了承に学はニッコリした。
「ありがとう、いやぁ学校が始まる前にいい人達に会えて幸運だったよ」
イルゼは頭を掻きながら言う学に苦笑した。
「それじゃあ中に入ろうぜ」
イルゼの先導に5人が入るとウェイトレスが声をかけてきた。
「何名様でしょうか?」
「5人です」
「お煙草はお吸いになられますか?」
「いやいや…、僕達全員未だ6歳ですから…」
ウェイトレスの言葉に全員呆れながら学が代表して答えた。
「アハハ、そうですよねぇ。それでは席にご案内いたします」
若干、ウェイトレスの対応に不安を感じながらボックス席に通され、メニューを渡された。
「それでは、ご注文がお決まりになられましたら、ソチラのボタンを押してくださいね」
ニッコリしながら説明すると、ウェイトレスは離れて行き、すぐに水を持ってくるとそれではと言って再び離れて行った。
「もう10時かぁ、お昼が入らなくなったら困るし軽いのにしとくか」
イルゼはメニューを開いた。
席順は、イルゼと学、木乃香とのどかと夕映で男女に別れた。
「僕は野菜サラダとオムレツにしようかな?」
「なら、俺は…おっ、カレースープだ!これ、俺大好きなんだよ。これにしよっと。ジュースはオレンジジュースだな。学はどうする?」
「僕はコーラにするよ」
イルゼと学はすぐに決まったが、木乃香達はうむむむと唸りながら悩んでいた。
「ホットケーキもおいしそうやし…でも、目玉焼きもええなぁ、オムレツ…」
「コーンポタージュも捨てがたいです…、シュガートースト…」
「うぅん、トーストにしておいてお昼に一杯食べるのもいいけど…うぅん」
それからしばらくして、木乃香はホットケーキとミルク、夕映はシュガートーストに蜂蜜抹茶レモンと言う明らかにおかしいジュース、のどかはトーストとサラ
ダ、そしてオレンジジュースにした。
「なあ…蜂蜜抹茶レモンってなんだ…?」
恐る恐るイルゼが聞くと夕映は自信満々に答えた。
「勿論!蜂蜜とレモンの入った抹茶です!」
「…」
それを聞いただけでイルゼは気持ち悪くなりそうだった。
「おいしそう…」
学の呟きにイルゼと木乃香とのどかはビクッとして学を見た。
「そんなのがあったんだ…あ!これだね、やっぱり僕はこのパセリカルピスにするよ!」
「…正気か?」
「え?…うん」
イルゼのこの上なく真剣な瞳にコクンと頷くと、イルゼは信じられない眼差しを向けた。
「パセリだけでもきついのに…」
イルゼはそれ以上の追求を止めた。
それからのどかがスイッチを押すとウェイトレスに注文した。
「かしこまりました!では、少々お待ちくださいね」
そう言うと、再びウェイトレスは奥へ消えて行った。
そして、イルゼは学に話しかけた。
「学は何号室なんだ?」
「僕は602号室の二人部屋だよ」
「なんだ、隣同士じゃんか。よろしくな」
「え?じゃあ君達601?603?」
「601だ」
「そっか、よろしく」
「うちとイルゼは同じ部屋なんよ」
木乃香の言葉に学はニッコリした。
「よろしく木乃香ちゃん」
「うん、よろしく」
「夕映とのどかは?」
イルゼの質問に夕映が答えた。
「私達は643なのです」
「みんなとはちょっと遠いね」
のどかはがっかりしながら言った。
「まあ、フロアは同じなんだし、みんな遊びに来いよな、俺達も行くからさ」
「うん」
「はいです」
「はい」
三人は笑顔で頷いた。
「学はルームメイトはいるのか?」
「それが、話では学校始まるまでは家に居て、始まってから引っ越すらしいんだ」
「へえ、大変そうだな。その時は手伝うぜ」
「お願いするよ」
「うちも手伝うえ」
木乃香はニッコリしながら言った。
「勿論、私達も手伝うですよ」
「うん!」
夕映とのどかも笑顔で言った。
「ありがとう、そういえばこの後みんなはどうするの?」
学の質問にイルゼが答えた。
「俺と木乃香は夕映とのどかにこの学園内を案内してもらうんだ。お昼も一緒に食べてから二時に麻帆良学園本校女子中等学校の学園長室に行かな
いといけないけどな」
「学も一緒にどうですか?」
夕映が学を誘った。
「いいのかい?ならお言葉に甘えさせてもらうよ。実を言うと、僕もここに来たのは昨日でこの学園をよく知らないんだ」
「任せてください。いろいろと名所を巡りますから。きっと楽しいのですよ」
「うん、ありがとう」
夕映がニッコリしながら言うと、学もニッコリしながら頷いた。
すると、ウェイトレスが注文した物を持ってきたので話は中断した。
それから、お腹が空いていたので全員言葉少な目に食事に集中した。
腹ごなしをしていると十時半になってしまい、外に出た。
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