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第2話『デジタルワールドとのお別れ』
デジタルワールドの中心に位置する島、『ファイル島』の中心にあるデジモン達の故郷、『始まりの街』。
そこには多くのデジタマが孵化するのを待ちわびている。
色とりどりのデジタマに囲まれながら一匹のデジモンがその中の一つを手に取った。
「どうしてコイツだけ黒いんだろう」
不思議そうな顔をしながらも大事に元の場所に置きなおしたのははじまりの街のデジタマの世話をするエレキモンだった。
毎日毎日、生まれたばかりの幼年期デジモンとまだ生まれないデジタマの世話をする彼はある日出現した真っ黒なデジタマを不思議に思い毎日見に来
ているのだ。
「どんなデジモンが生まれるんだろう」
「ふむ、不思議なデジタマじゃな」
「あっ、長老!」
エレキモンは背後から突然かけられた言葉に驚いたが、すぐにその声が自分の良く知るはじまりの町の長『ジジモン』であることを察して振り返った。
ジジモンはいつも持ち歩く杖を横に倒して、自身も膝を折り、黒いデジタマを覗き込んだ。
「このようなデジタマは見た事がないのう…、一体…。」
ジジモンが卵を抱こうと手を伸ばしたとき、突然、卵が震え始めた。
「生まれる!」
エレキモンはジジモンの反対側にしゃがみこんで生まれるデジモンを見た。
真っ黒なデジタマは徐々に内側から破れていき、中からは紫色の目つきの悪いデジモンが生まれた。
「キキキキー」
産声を上げたそのデジモンは長い年月を生きるジジモンにもわからない種類のデジモンだった。
「長老、この子は一体…」
エレキモンは不安そうにジジモンを見つめたが、ジジモンは生まれたばかりのデジモンを胸に抱き口を開いた。
「この子はワシが預かろう。お主は他のデジモン達を頼む」
「はい…」
そう言うとジジモンは去っていった。
エレキモンはその後姿を眺めて何故だか不安になった。
ジジモンがまるでダンボールハウスのような形状の家に入ると、中には『ババモン』と『ファクトリアタウン』からの会いに来ていたアンドロモンが居た。
「お帰りなさいジジモン」
「お邪魔している」
「うむ、今帰ったぞ。アンドロモンもよう来た」
「ええ、彼との約束もありますが、貴方方に会いに来るのが最近の楽しみでしてね。」
アンドロモンはそこで言葉を切ると、ジジモンの胸に抱かれているデジモンに気が付いた。
「この子は?」
「ふむ、エレキモンの所で新たに生まれた子じゃよ。なんとも不思議な子なのでな、苛められてもなんじゃから連れて帰った」
「目つきが悪いですね」
アンドロモンがそう言うとデジモンの赤ん坊は怒ったようにキーキーと唸った。
「これこれアンドロモンよ。そのように言っては可愛そうじゃろ。ジジモン、その子を抱かしてくれんかね?」
「うむ」
ジジモンは慎重にババモンにデジモンの赤ん坊を渡した。
「確かに観た事のない子じゃな。じゃが、安心しなさい。私らがちゃんと立派に育ててあげるからの」
ババモンは優しげに微笑みながら言った。
それからの歳月は瞬く間に過ぎ去った。
キーキーと鳴くから『キーモン』と名付けられた子供は程なくして進化の時を向かえ、今度はヤーヤーと鳴き始めたので『ヤーモン』と名付けられた。
ヤーモンに進化した子供はまるで悪魔の生首のようだったが、ジジモンとババモンは子供を可愛がり、はじまりの街のデジモン達も皆可愛がった。
はじまりの街には、それぞれ仕事をしているデジモン達が住んでいる。
子育てのエレキモン、水の中を泳ぎ生まれたばかりの子供が溺れないように監視しているシーラモン。
怪我を治し、病気を治療するケンタルモンも居る。
特に多いのは幼年期のデジモン達だ。
空中に浮いているユラモンや、知りたがりのタネモン、エレキモンに甘えるボタモンや大きな欠伸のトコモン。他にもたくさんの子供達が住んでいる。
街の裏側にはファイル島に聳え立つムゲンマウンテンが島を見下ろし、そこからウイルスなんかが出てこないようにしている封印を護る『エアドラモン』は
いつも寝ている。
小さな村には大きな幸せがあった。
それからしばらくして、エアドラモンが血相を変えてジジモンとババモン、ヤーモンの住んでいる家に飛び込んできた。
「大変だ!!」
「どうしたんじゃエアドラモンよ」
エアドラモンの様子に警戒心を高めジジモンがエアドラモンに問いかけた。
「ムゲンマウンテンの封印が解けかけているのです!」
「なんじゃと?!」
ムゲンマウンテンの封印はミスティツリーズの長の『ジュレイモン』とギアサバンナの長の『パンジャモン』とダイノ古代境の『マスターティラノモン』、そして、
ジジモンとババモンの旧知の友であるアンドロモンが鍵を握っている筈だった。
それが解けかけているという事は彼らに何かが起きたと言うことだ。
「エアドラモンよ、今すぐオーバーデル墓地の『ヴァンデモン』に連絡を取るのじゃ!」
「わかりました!」
ジジモンは急いで街を飛び出し、ムゲンマウンテンの入り口に向かった。そこには、本来は不可視となっている筈の封印が大きな音を立てて崩壊しようと
していた。
「いかん」
冷たい汗が額を流れるのを感じながらジジモンは太古の昔に、人間の友と戦った証であるデジヴァイスとよばれる神器を取り出した。
デジヴァイスを封印に向けると、デジヴァイスは目が眩む程の光を放ち封印の崩壊を静止させた。しかし、それは一瞬だけの事だった。
「ぐぬぬ…」
デジヴァイスが凄まじい熱を放つがジジモンは手放さずに脚を踏ん張った。
再び崩壊が止まるが、ジジモンの手の中でジジモンを焼き殺さんとばかりにデジヴァイスは熱を上げ続けた。
それから数時間が経過し、ジジモンの体は所々が消滅し、苦しげ肩で息をしていた。
はじまりの街ではババモンがデジモン達の混乱を収めるのに奮闘し、一匹のデジモンが街を飛び出した事に気づくことが出来なかった。
そして、はじまりの町の遥か東の上空を凄まじい速度で移動する蝙蝠の群れとエアドラモンの姿があった。
「なんという力だ、ジジモン殿…」
蝙蝠の群れの中から声が響き、エアドラモンが焦った様にそれに答える。
「あの封印が解けるなんて…、急いで再封印しなくちゃ!!」
「私はこのまま向かう、エアドラモンよ、君は今すぐダイオン郷の『トノサマゲコモン』の元へ向かってくれ。アイスサンクチュアリには私の知り合いが向かっ
ている」
「わかった!!」
そのままエアドラモンは蝙蝠の群れの行き先とは別の方へと飛んで行った。
「あの封印が解けたということはジュレイモン達は…、一体何が起きたと言うのだ」
そのまま蝙蝠の群れは一際強い力を発するムゲンマウンテンの麓へと急いだ。
「ぐぐ…、ここ…までか」
ついに膝を折ってしまったジジモンの手からデジヴァイスが零れ落ちた。
その瞬間に、ムゲンマウンテンの入り口お封印が一気に弾けとんだ。
そして、ジジモンは目を見開いた。
元より、ムゲンマウンテンには本来役目があった。それは人間の世界とデジタルワールドとの連絡口である。
しかし、人間達とデジモン達は相容れぬ溝があり、人は彼らを恐れ、デジモンもまた、争いを好む人という種を恐れていた。
そして、人間界から来るウイルスを防ぎ、同時に人間界への連絡口を防ぐ目的でもムゲンマウンテンは4体の力のあるデジモン達がそれぞれの力で封じ
ていたのである。
だが、それが解け、ジジモンの前にはムゲンマウンテンの真っ暗な虚空が覗き込め、そして、その向こうにかつて親友だった人間が話してくれた人間界
が見えた。
「あれが…人間界…」
皆が恐れ、長として不安を取り除かなければならなかったジジモンだが、かつての友の世界に憧れた事があった。
しかし、その干渉も長くは続かなかった。
「ジェノサイドアタック!」
突然響いたその声に無意識に反応し杖を振上げた。
「ガードスティック!」
ジジモンの周りに光のバリアあ発生する。
その無効には、青い手足のついたミサイルが無数に向かってきていた。
周囲に爆音が鳴り響く。噴き上げられた煙の中で満身創痍となったジジモンが両手を地面につけている。
その時、ジジモンの耳には居てはいけない存在の鳴き声が聞こえてしまった。
「ヤーヤーヤー」
その鳴き声の方を向くと、そこには必死に跳ねてジジモンの元へ向かおうとしているヤーモンの姿があった。
そして、上空にはさっきのジェノサイドアタックを放った真紅の肉体と漆黒の鎧を纏った竜、『メガドラモン』の姿が在った。
「ヤーヤー!」
そして、メガドラモンは懸命に跳ねるヤーモンに両手の砲身を向けた。
「やめるんじゃ!!」
ジジモンは消えかける体に鞭を打って駆け出した。
そして、
「ジェノサイドアタック!!」
ジジモンがヤーモンを抱きしめたと同時にジェノサイドアタックが発射された。
しかし、それが当たる事はなかった。
「ナイトレイド!!」
無数の蝙蝠がジジモンとヤーモンを覆った。
そして、その向こうにはメガドラモンに対峙するヴァンデモンの姿があった。
「おお、来てくれたかヴァンデモンよ」
「無事か!ジジモン殿!」
メガドラモンを睨みつけたままヴァンデモンはジジモンに声を掛ける。
「そこをどけ」
唐突にメガドラモンが口を開いた。
「貴様は何者だ?」
ヴァンデモンはジジモンに対する時とは違いどこまでも冷たい声で問うた。
「ふん、貴様に応える気は…ない!」
メガドラモンはヴァンデモンに距離を詰めて両腕を左右に広げて回転した。
「アルティメットスライサー!!」
真空の斬撃が襲い掛かり、ヴァンデモンの体を切り裂いた。だが、ヴァンデモンの体が無数の蝙蝠に変わり、メガドラモンの背後に再び出現した。
「ナイトレイド!!」
無防備な背中に無数の蝙蝠をぶつけた。
「ぐおおおおおぉぉぉぉぉ!!」
そのまま地面に激突したメガドラモンは動かなくなった。
「大丈夫か?」
ヴァンデモンはジジモンとヤーモンの所に降り立った。
ヴァンデモンはジジモンの消え掛かっている体を見ると顔を顰めた。
「まずいな、一刻も早くケンタルモンの所に行かねば」
「うむ、そうじゃな。ヤーモンよ、助けに来てくれたのかの?」
ジジモンは胸に抱いたヤーモンに微笑みかけるとヤーモンも笑顔で答えた。
「ヤー」
「ふむ、久しいなヤーモンよ。お前はウイルス種だからな、成長が楽しみだ」
「ふむ、将来はどのようなデジモンになるか楽しみじゃな…?!」
ヴァンデモンとジジモンが会話していると、突然、ムゲンマウンテンの入り口にとてつもない力で吸い込まれそうになった。
「なんじゃ?!」
「まずい、避難するぞ!」
「ヤー!」
ヴァンデモンがジジモンの手を握り飛び立とうとした瞬間、起き上がったメガドラモンが両手の砲身を開き、ジェノサイドアタックを放った。
「ジェノサイドアタック!!」
「ぐああああぁ!」
「いかん!!」
ジェノサイドアタックの衝撃をヴァンデモンが防ぐが、ジジモンの手からヤーモンが滑り落ちてしまった。
「ヤーモン!」
ジジモンはヴァンデモンの手を離しヤーモンを追いかけて駆け出した。
「いかん、戻れ!ジジモン!」
ヴァンデモンは血相を変えて叫ぶが、ジジモンはヤーモンを追いかけ続けた。
そして、ヴァンデモンが目を離した隙に、メガドラモンが再び砲身を開いた。
「ジェノサイドアタック!!」
ジェノサイドアタックはジジモンの体を捉え、ジジモンの体から一気に光が噴出した。
それを見たヤーモンの体が輝いた。
「ジジモン!!」
進化したヤーモンはインプモンと呼ばれる子悪魔型デジモンだった。
インプモンは消え行くジジモンを見ながら目から涙を零して叫び続けた。
「ジジモン、ジジモン、ジジモン、ジジモン!!」
それを見たヴァンデモンは歯を噛み締めてメガドラモンの頭に両手を当てた。
「許さん、ナイトレイド!!!」
至近距離からナイトレイドを受け、メガドラモンは一瞬で消え去った。
「ジジモン、ヤーモン!」
ヴァンデモンが振り向いた先で、ジジモンが最後の力を振り絞って叫んでいた。
「パートナーを、パートナーを探すんじゃ!!そうすれば…ぐあああぁぁあぁああああ!!」
そして、ジジモンの姿は掻き消えた。
そして、インプモンの姿も、ムゲンマウンテンの中に消えて行った。
「………」
ヴァンデモンは一人手を握り締めて歯を食いしばり、感情を殺した。
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