第67話『魔王の面影』


ようやく二人が回復したのは、それから三十分も経ってからだった。

「大丈夫なのか?本当に…、二人とも無理は…」

「大丈夫だよ!もう回復したよ!」

「せや!はよ、次のアトラクションに行こう?イルゼ」

イルゼの言葉に、フェイと木乃香は言った。
イルゼは戸惑いながら頷くと、「あ、ああ」と言った。

「さて、どこに向かう?」

エヴァンジェリンが聞くと、イルゼはパンフレットを広げて考えた。

――どうするか…。二人とも、絶叫系は苦手らしいしな。そう言えばお腹が空いたな…。

そう考えると、イルゼは飲食店の目欄を見た。

――色々とあるな…さて。

「木乃香、フェイ、何か食べようと思うんだけど、大丈夫か?軽い物にしようとは思ってるんだけどさ」

イルゼが聞くと、木乃香は「大丈夫やえ」と言った。

「うちはもう平気やで」

木乃香が言うと、フェイも口を開いた。

「僕ももう大丈夫。それより、僕も少しお腹空いちゃった」

「そうか、じゃあ飲食店に行こう。『世界の料理市場エリア』って言うのが、麻帆良男子中等部エリアにあるらしい。ばあちゃんもいい?」

「ああ、私は構わないぞ。面白そうだな。だが、英国の料理はあまり薦めんぞ?食材に恵まれない国でな、野菜も肉も、味が無くなるまで焼いたり茹でた
りする。国を出てから他国で食べた料理はそれこそ天地の差があった」

「げっ!味が無くなるまでって…。ばあちゃんの国の料理食べてみたかったんだけどな…」

「せやね、でもテレビで、今の日本のカレーやステーキ、ローストビーフなんかはイギリスが発祥言うのを聞いた事あるで?」

エヴァンジェリンの言葉にガッカリしたイルゼに木乃香は言った。

「うん、僕も聞いた事があるよ。インドで食べたカレーに感動したイギリス人が、自分の国で食べれる様に、カレールーを使って作る様になったのが、日本
に伝わったカレーだって」

木乃香の言葉に、フェイも頷いて言った。

「あっ!フェイもこの前の『その時、食卓が動いた!』を見たん?」

「うん!木乃香ちゃん達に夕食をお招きして貰う様になってから、エヴァンジェリンさんのお手伝い、もっと上手になりたくて色々料理番組見てるの。学は
アニメ見たい!って、怒るけど…」

「ん?木乃香、そんなの何時観たんだ?俺は知らないけど…」

木乃香とフェイの会話に、イルゼが首を傾げると、木乃香は言った。

「麻帆良祭の一日目や。『麻帆良チャンネル』でやってたんよ。イルゼは寝取ったからな」

「うん、学も寝てて、テレビを見てたら起きて来たの」

木乃香の言葉に、フェイが言った。

「そうだったのか。にしても、知らなかったな」

イルゼが言うと、エヴァンジェリンも顎に手をやって言った。

「うぅむ。私が居た頃とは随分と料理も変わったのか。昔は調味料も使わなかったからな。調味料自体、中々手に入らなかったのもあるらしいが」

「え?調味料が手に入らなかったって…?」

エヴァンジェリンの言葉に、フェイは不思議そうに目を丸くした。
それに、エヴァンジェリンは「しまった…」と思った。

「いや、私の故郷は少し田舎でね。中々、調味料を手軽にコンビニで…とはいかなかったのよ」

エヴァンジェリンが言うと、「大変なんだね」とフェイは言った。
すると、イルゼはエヴァンジェリンを何とも言えない表情で見ていた。

「な、なんだ?イルゼ?」

その視線に、エヴァンジェリンは聞いた。

「ん?いや…、ばあちゃん。何か口調が変だなって思って…」

イルゼが言うと、木乃香も頷いた。

「う…うん。何だか安定しないって言うんかな…?」

「なに…?って、そうか…。いや、なるべく保護者として丁寧語を使うように心掛けたつもりだったんだが…。慣れない事をするもんじゃないな…。気をつけ
ないと直ぐに素に戻ってしまう…」

エヴァンジェリンが溜息を吐くと、木乃香は「うぅん」と唸った。

「うちは、何時ものおばあちゃんの喋り方がええなぁ…」

「俺も、何か…ばあちゃんの丁寧語って落ち着かないんだよな…」

「僕はよく分からないけど、エヴァンジェリンさんは素で喋っちゃいけないの?」

三人に言われ、エヴァンジェリンはガックリと肩を落とした。

「ハァ…。少し、自分なりに考えたんだが、桃子の言う通りか。さすが熟練だな。フェイ、別に素で喋ったらいけない訳じゃないさ。ちょっと、保護者の威厳
が欲しかっただけだ。ただ…イルゼ、落ち着かないとは何だ。ちょっと、心に響いたぞ…」

「え、あ…ごめん。なんか、何時もと違うってのに違和感が在っただけだよ」

「そうか…。まぁ、無理に口調を変える必要は無いって事か。まぁ、相手にはよるがな」

その後、イルゼ達は『世界の料理市場エリア』に入った。
多くの人が犇いているが、それでも人が多すぎて逸れる…と、言う事は無い様だ。
かなり広大で、幾つもの店が両脇の壁側や転々と市場内に在る。

「折角だし、色々な国の料理が食べたいな。おっ!メキシコ料理のお店があるぜ!へぇ、タコスっての美味しそうだな。食べてみようぜ!」

イルゼが言うと、エヴァンジェリン達も頷いて後に続いた。

「中身が色々な種類があるみたいだね」

フェイが言うと、木乃香がメニューを眺めながら言った。

「せやねぇ。チーズがメインのや、お肉がメインのもあるんやね」

「ふむ、だがサルサと言う辛いタレを掛けるみたいだ。三人とも大丈夫なのか?」

エヴァンジェリンが言うと、イルゼはニッと笑った。

「へっちゃら、へっちゃら!俺は肉のにするぜ!」

イルゼは順番が回ってくると、注文した。

「畏まりました。ソースはどうなさいますか?サルサ、やライムの汁などがあります。辛いのや酸っぱいのが苦手でしたらケチャップにしますが?」

店員が言うと、木乃香とフェイはホッとした様に息を吐いた。

「良かった。うちはケチャップにするえ」

木乃香が言うと、フェイは「うぅん」と悩んだ。

「僕はライムの汁がいいかな。酸っぱいの好きだから。辛いのは苦手だけど…」

すると、イルゼは迷わず「サルサ!」と言った。

「おい、大丈夫なのか?結構辛そうだぞ…」

「平気だって!」

エヴァンジェリンの忠告に、イルゼは適当に答えた。
すると、エヴァンジェリンは意地悪そうな顔で言った。

「なら、残す事は許さないからな。残したら…そうだなぁ、一週間、夕食にピーマンを入れてやろう」

「イッ…!!ば、ばあちゃん!それ酷いよ!!」

「なんだ?食べれないならケチャップにすればいいんだぞ」

苦笑しながら言うエヴァンジェリンに、イルゼは剥れると、微笑ましげに見ている店員に「サルサでお願い!!」と言った。

「よろしいので?」

店員がもう一度聞くと、イルゼは頷いた。

「では、そちらの方々はどうなさいますか?」

店員が、木乃香やフェイ、エヴァンジェリンに聞いた。

「うちは、ライスのケチャップで!」

「僕は…えっと、魚とライム汁で!」

「私は…そうだな。この、サボテンの入った不思議なタコスを頼む。私はサルサで」

三人がそれぞれ言うと、店員は「畏まりました」と言って、レジに入力すると、「全部で600円になります」と言った。全商品150円で、水は飲み放題なの
だ。
エヴァンジェリンが三人分のお金を払うと、店員は「こちらをお持ち下さい」と言って、番号の振られた札を渡して来た。
エヴァンジェリンが受け取ると、店員に示され、受け取り場所に向かった。
受け取り場所はレジのすぐ隣で、前に三組程並んでいたが、一分と経たずに番が回ってきて、四人はそれぞれの紙に包まれたタコスを受け取った。

「うおおお!うまそう!!いっただっきます!!」

そう言って、イルゼはサルサの心なしか、タップリと掛かっているタコスを大きく口を開けて咥え込んだ。
すると、イルゼの顔は見る見る真っ赤になっていった。

「かっれええええええ!!!!」

今にも火を吐きかねない程に唇を真っ赤にしてイルゼは息を何度も吐いて口の中を冷まそうとした。

「イ、イルゼ!ほら、水飲んで!」

木乃香が、紙コップに直ぐ近くの給水所から水を入れてイルゼに手渡した。
それを、「ふぁ、ふぁんひゅう!」と言って、イルゼは一気に飲み干した。

「う、うう…。なんて辛さだ。予想以上だよ…」

その様子にエヴァンジェリンは苦笑しながら言った。

「全く、だから言っただろ?ちゃんと、食べないと…」

「わ、判ってるよ!ピ、ピーマンに比べりゃこのくらい!!」

イルゼは頬を歪めながら、まだ殆ど残っているサルサたっぷりのタコスを見てゲンナリした。

「だ、大丈夫?イルゼ」

フェイは苦笑しながら聞くと、イルゼは「お、おう」と答えた。
それから、水を何杯もお代わりしながらタコスを食べ切った。
フェイと木乃香、エヴァンジェリンは美味しく食べたが、イルゼはどこか疲れた様に疲弊している。

「べ、別の食べに行こうぜ…」

イルゼが言うと、エヴァンジェリンは苦笑しながら「ああ」と言った。

「だけど、今度は変に意地張ったりして変な物を頼んじゃ駄目だぞ」

「はぁい…」

エヴァンジェリンに叱られ、イルゼはシュンとなって答えた。
それから、イルゼ達はイタリア料理のお店に行った。

「エ、エスカルゴ!?エスカルゴって…カタツムリだよな?」

イルゼが驚いた様にメニューを見ると言った。

「え?カ、カタツムリ!?」

木乃香も素っ頓狂な声を上げて驚いた。

「カタツムリって…あの、梅雨に出てくるのだよね…?」

フェイも目元を引き攣らせながら言った。

「ふむ、そんなに怯える必要はないぞ。意外と美味しい物だ。私もイタリアに居住していた時期があってな。食べた事があるが、熱々のエスカルゴは中々
に美味い。よしっ!買って来るから待ってろ!」

「へ!?ちょ!!ま、待ってくればあちゃん!!」

エヴァンジェリンの言葉に、イルゼが叫ぶが、エヴァンジェリンはサッサと買いに行ってしまった。

「ま、まさか…食べ切らなかったらまたピーマンって事に!?…カ、カタツムリだぞ…!?」

イルゼはワナワナと震えながら言うと、木乃香とフェイも顔色を悪くしていた。

「カタツムリって…本当に食べれるのかな?」

フェイが聞くと、木乃香は「さ、さあ…」と首を傾げた。
そして、円盤型の鉄の板に、たこ焼様の鉄板の様に丸い穴が空いた特別な器に、ジュージューと鳴りながら、香ばしい臭いを発する真っ黒な物体を入れ
て、エヴァンジェリンは戻って来た。

「ほら、これがエスカルゴだ。食べてみろ。このガーリック・トーストに載せて食べるんだ。オイルを沢山つけてな」

そう言うと、エヴァンジェリンはもう一方のお皿に乗っている黄色いパンの上に、スプーンで掬ったエスカルゴを乗せると、一緒にパクッと食べた。

「うん、美味い!」

そのエヴァンジェリンの様子に、三人も恐る恐る同じ様に食べてみた。
すると、三人とも目を丸くした。

「うっめえ!!何これ!?まぢでカタツムリなのか!?もう一個食べよ!」

イルゼは頬が落ちるかと思うほどの美味しさに心を打たれ、もう一枚のガーリックトーストを取ると、その上にエスカルゴを乗せて食べた。

「美味しい!うち、頬が落っこちちゃいそうやわぁ」

木乃香もあまりの美味しさにご満悦の表情を浮べた。

「うわぁ、なんだか貝みたいだけど凄くおいしい!」

フェイも満面の笑みを浮べながら言った。

「ふむ、こんなに盛況とはな。よしっ!エスカルゴ用の調理器具を販売していたから、ちょっと買ってくる。残りは三人で食べてていいぞ」

「まぢで!?寮でも食べれるの!?よっしゃぁ!!」

エヴァンジェリンの言葉に、イルゼは歓声を上げ、木乃香とフェイも顔を見合わせて喜んだ。
それから、三人で残りのエスカルゴを平らげると、部屋に発注したエヴァンジェリンが戻って来た。

「さて、腹も膨れたし、次はどこに向かう?もうお昼過ぎだからな。イベントを見に行くのもいいかもしれんぞ?」

「イベントか、どれどれ…」

エヴァンジェリンの言葉に、イルゼはパンフレットを広げると、イベントの一覧を見た。

「パレードは夜だし、女装イベント?んなもん見に行っても仕方ねえし、コスプレイベント、武術大会、コンサートイベント、ん?『GO!GO!サーキットの暴
走族を捕まえろ!』?変なタイトルのイベントだな」

イルゼが言うと、エヴァンジェリンが「どれどれ?」と言いながらパンフレットを覗き込んだので、イルゼはパンフレットをエヴァンジェリンに渡した。

「ふむ、どうやらバイクに乗って逃げる暴走ロボットを捕まえるのか」

「バイクか、面白そうだなぁ」

イルゼが言うと、エヴァンジェリンは苦笑した。

「まだ、イルゼには早い。他のイベントにしよう。これなんてどうだ?射撃大会。優勝すると…ほう、夜のフィナーレ・イベントの『マホラフィスティバル・ナイ
ト・パレード』に参加出来るらしいぞ」

「パレードに参加?」

木乃香が首を傾げると、エヴァンジェリンが説明した。

「どうやら、優勝者はパレードの乗り物で麻帆良学園を一周するらしい。中々、面白い体験かもしれないな。優勝者は五人までパレードに一緒に参加出
来るらしい」

「へぇ、パレードかぁ」

と、フェイはテレビの遊園地のパレードを思い出して憧れる様な目で言った。

「へぇ、面白そうじゃん。行って見ようぜ!時間は…ギリギリだな」

それから、イルゼ達は大学部エリアの広大な広場を使った射撃トーナメントに参加した。
ルールは簡単で、参加資格は一人一回。
予選でかなり遠くの的に十発の弾丸を見事に命中させれば本選に進めるらしい。
専用の銃で、弾丸が十発なら、二丁拳銃やライフルなども使用が可能だ。
当然、全て偽者で、特別な弾丸で、空気圧では割れないが、何かに当たり、物理的な衝撃を受けると簡単に割れてしまう物で、人にぶつけても全く痛み
を感じないそうだ。
弾丸があたると、中の色のついた液体が飛び出る仕組みになっている。
四人とも参加し、最初にフェイが小型の銃で参加したが、撃つ度に目を閉じるので、一発も掠らずに終わった。
次に、木乃香が参加したが、同じく小型の銃で、目を開けていたが、それでも一発も掠らなかった。

「ふむ、案外難しいようだな…」

そう言うと、エヴァンジェリンが『IMIデザートイーグル』型のを構えた。
腹に響く様な音と共に飛び出した弾丸は、見事に離れた的に命中した。

「凄いおばあちゃん!」

木乃香が歓声を上げた。

「エヴァンジェリンさん凄い!!」

フェイも感激した様に叫んだ。

「すっげえ!さっすがばあちゃん!」

イルゼも歓声を上げて、エヴァンジェリンは誇らしげに、僅かにニヤケながらもう一発弾丸を撃った。
だが、今度は完全に外れてしまった。

「あっ…!」

その後、四発は当たったが、他は外れてしまった。

「うう…、油断や慢心は失敗の元だと言う教訓だな…」

ガックリしながら戻って来たエヴァンジェリンに、木乃香達は口を開いた。

「そんな事あらへんよ!凄かったで、おばあちゃん!」

「おう!ばあちゃんかっこよかったぜ!」

「エヴァンジェリンさん、四発も当たって凄かった!」

三人に言われ、エヴァンジェリンは再び頬を緩ませると、「そ、そうか?」と満更でもない表情になった。
最後に、イルゼの番になった。
すると、アナウンスが流れた。

『さぁ!残りの枠は残り一名となりました!さぁ、本大会に進むのは誰でしょうか!』

アナウンスに、イルゼは慌てて銃を選んだ。

「あ、後一名かよ!!ああもう!チンタラ撃ってたら間に合わないぜ!おっ!二丁拳銃なんてあるのか!どうせ、一丁でも当たらなきゃ当たらないだろう
しな!」

そう言うと、イルゼは二丁に弾丸が分けられたタイプを手に取った。
銃身が少し重たく感じるが、イルゼは不思議な懐かしさを覚えた。

「なんだ…この感覚?」

両手に持って前に突き出す様に構えると、なんとも言えない感覚だった。
どこか懐かしく、だが、それは違うと否定する感覚。
そして、イルゼはそのまましばらく固まっていると、アナウンスが再び流れた。

『493番さん、現在7発命中!』

そのアナウンスに、イルゼは焦って射撃場に出た。

「遅いでイルゼ!」

射撃場の背後の観客席の一番前の列から、木乃香達が声を掛けた。

「悪い!!」

謝ると、イルゼはどこまでも自然なアクションで拳銃を斜めに八の字に構えると、右手の銃で一発目を放った。
すると、弾丸は見事に命中した。
100mは離れている的は、すぐさま一瞬の間に新しいのに変わった。
そして、イルゼはそのまま、銃を見ずに、ただ的の中心だけを睨みながら、すぐに二発目を放った。
すると、見事に中心に命中し、新しい的に代わるとすぐさまイルゼの銃から放たれた弾丸は命中し、切り替わっていく。

『おおっと!!458番さん、なんと小学一年生の少年!二丁拳銃で…ど、ど真ん中に連続命中!?既に8発命中だぁ!!493番さんも9発目命中!!っ
と、その間に458番の少年9発目命中だ!!おっと!?458番の少年、493番の男性!同時です!本当に同時に10発目命中です!…少々お待ち下さ
い!』

「ふぅ…」

集中力が途切れ、イルゼは小さく息を吐いた。
周りは静かになっている。
観客席の木乃香達も呆然としている。
あまりに異常な光景だったからだ。
二丁拳銃で連続で撃ち、かつ…全弾が、的の中心に当たったのだ。
イルゼ自身も戸惑っていた。
何故か、懐かしいと思える銃を撃つ感覚にだ。
そして、アナウンスが流れた。

『えぇ、先程の件で審議した結果、ほぼ同時とは言え、458番の少年は二丁拳銃で全弾丸が、的の真ん中に命中していました。それを考慮して、458番の
少年に本選出場権が与えられました!』

その瞬間、会場は凄まじい大歓声に包まれた。
そして、耳を押さえながらイルゼが本選開始の待ち時間を過ごす為に観客席に行くと、エヴァンジェリン達は戸惑った様な様子で出迎えた。

「イ、イルゼ、さっきのは一体…?」

エヴァンジェリンは動揺した様に聞いた。
それに、イルゼは首を振った。

「判らない。なんでか判らないけど…、銃を持ったら、なんか懐かしいって感じたんだ…」

「懐かしい…?」

イルゼの言葉に、木乃香は首を傾げた。

「イルゼ、銃を使ったことがあるの?」

フェイが聞くと、イルゼは首を振った。

「んな訳ないだろ。射撃なんて初めてだよ。でも、どうしてか、シックリきたんだ」

「しかし…、二丁拳銃で連射して全弾がど真ん中に命中とは、凄いを通り越して呆れたぞ」

エヴァンジェリンが言うと、イルゼも返した拳銃を思い出す様に銃を持つ様に手を構えた。
それから、イルゼは肩を竦めると、アナウンスが本選開始を宣言した。

「んじゃ、行って来る。巧く優勝したら、一緒にパレードに参加しようぜ」

イルゼが言うと、木乃香とフェイは頷いた。

「うん!イルゼならきっと優勝出来るえ!がんばって!」

「イルゼ、頑張ってね!応援してるよ!」

二人の声援を受けて、イルゼはニッと笑うと、歩き出した。
その後姿に、エヴァンジェリンも口を開いた。

「イルゼ、頑張るんだぞ!優勝したら、一週間イルゼの大好物のオンパレードにしてやる!」

「まぢで!?よっしゃ!!頑張ってくるぜ!!」

エヴァンジェリンの言葉に、イルゼは俄然ヤル気を出して射撃場に、向かった。






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