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第50話『相坂キヨ』
放課後になり、人形を学園長室に置いてきた近右衛門と、フェイと学に用事があると言って来たイルゼ、木乃香、エヴァンジェリン、さよ、そして首輪を着
けられたレオルモンは相坂の家に来た。
ちなみに、さよが学園内に居ても違和感を誰も感じない様にミス研の皆には『相坂さよ』ではなく、『南キヨ』と言う架空の人物に記憶と記録を全てすり替
えられた。
記憶を弄られるのは、イルゼは不満だったがさよの為に渋々同意した。
他にも、相坂さよの名は全ての記録、記憶から抹消し、代わりに架空の人生をでっち上げた。
年齢も高校を卒業出来なかったとは言え、卒業まで数ヶ月だった事もあり、高校卒業資格も偽装された。
全て、近右衛門一人でやったのだが、誰にも怪しまれる事なくやってのけるその手腕に、エヴァンジェリンは呆れ半分に感心してしまった。
そして、レオルモンの首輪はエヴァンジェリンが用意した。
幻術で明らかに大きくて謎な種類である事を見た者に違和感を感じさせない様にする為だ。
首輪にしたのは、ペットとした方が都合がいいだろうと言う事だった。
レオルモンは、首に巻かれるのをあまり良くは思わなかったが、特に文句は言わなかった。
そして、五人と一匹が辿りついたのは古ぼけた雑草が乱雑に伸びている一軒の小さな家だった。
相坂は動悸が強くなり、涙が零れそうになるのを必死に耐えた。
だが、その様子を見た近右衛門は優しく言った。
「泣いてもいいんじゃよ?」
その言葉に、さよは一頻り近右衛門に縋って泣いた。
自分の家に戻って来た瞬間に、様々な思いが溢れてしまったのだ。
何よりも、一番大好きなお祖母ちゃんに会えない。
それが、さよには悲しく仕方なかったのだ。
エヴァンジェリンはソッと遮断結界を張り、さよの泣き声で誰も反応しないようにした。
それは、我慢しなくて良い様にとのエヴァンジェリンの優しさだった。
表札には相坂の文字が今尚躍っている。
近右衛門の調べで、この土地は売られる事無く矢部の名義で保管されていたそうだ。
雑草の伸びは酷いが、家は結界に護られていて全く荒らされた形跡は無かった。
そして、さよが泣き止むと、一同は相坂の家へ足を踏み入れた。
その瞬間だった。
エヴァンジェリンと近右衛門はハッとなったのだ。
「どうしたの?」
さよが近右衛門に聞くと、近右衛門は言った。
「何らかの魔法が発動した様じゃ…こっちじゃ!」
そう言うと、近右衛門とエヴァンジェリンが先導し、相坂の記憶に在ったレオモンとさよがキヨに生贄に成ると話した場所だった。
少し広めの部屋で、その中心に居たのは…さよの霊だった。
「な!?相坂!?」
エヴァンジェリンは目を見開いた。
だが、近右衛門は「違う…」と言った。
「え?おじいちゃん?」
木乃香が聞くと、近右衛門は言った。
「相坂…キヨさんじゃな?」
その言葉に、全員が絶句した。
そして、全員が見守る中で、さよの霊は光に包まれた。
そして、そこに居たのは優しそうで、凜とした美しさを併せ持つ老婆、相坂キヨだった。
「お…ばあ…ちゃん?」
さよはフラフラと目を見開きながらキヨに近づいた。
そして、エヴァンジェリンはキッと近右衛門を睨み付けた。
「どういう事だ?」
すると、近右衛門は口を開いた。
「エヴァンジェリンよ、お主が言ったではないか。さよちゃんのファントムが記憶が戻ったと驚いた…と」
その言葉に、エヴァンジェリンはハッとした。
「そういう…事か。何故気付かなかったんだろうな…」
エヴァンジェリンの言葉に、木乃香とイルゼが首を傾げたが、その前にレオルモンが口を開いた。
「すまない、少しだけ二人を…」
その言葉に、四人は頷いた。
さよはキヨに触れずに居た。
キヨは霊体だったからだ。
そして、さよは涙を流しながらキヨに何かを語りかけている。
四人と一匹は部屋を出て、レオモンの部屋だった場所に移った。
家は何処も彼処も何年も放置されていたとは思えないほど綺麗だった。
そして、エヴァンジェリンは口を開いた。
「恐らく、相坂のフェントムの正体は相坂の髪を使い霊体を相坂に化けさせた相坂キヨだったんだ」
その言葉に、少なからず木乃香とイルゼは驚いた。
だが、レオルモンは何処か察していたのかあまり大きなリアクションは取らなかった。
「記憶が戻った。つまりは、封印が解除された時に記憶が戻るようにしてあった。幻影ならそんな必要は無い。それに、幻影は何時か消える。だから、相
坂キヨは死後に自分を相坂の幻影に化けさせた。そして、時が来るまでの間を記憶を封じた…と言った所だろうな…」
「凄いよな…みんな」
イルゼはしみじみと言った。
「ん?」
エヴァンジェリンが首を傾げると、イルゼは「だってさ…」と口を開いた。
「みんな強いじゃん…。みんな必死に生きて、それなのに誰かを思えるなんてさ」
それは、僅かな不安だった。
人では無い自分。
強き思いの可能性に、自分は辿りつけるのかが不安だった。
全てに絶望して尚、両親に助けを請わずに生き、それでも信念を決して曲げずに生き抜いたエヴァンジェリン。
好きな人の為に人生を全て投げ打って、絶望しても不死鳥の如く再び立ち上がった近右衛門。
自分の死後も、何時開放されるか分からない孤独に身を投げ出した相坂キヨ。
だが、違うなとイルゼは考えを打ち消した。
人もデジモンも関係無い。
ライバルの為に身を投げ出したオーガモン、自分の信念と友の為に強くなったレオモン。
みんなの魂の輝きが、イルゼには何処か眩しく感じたのだ。
だが、エヴァンジェリンは呆れた様に言った。
「お前はこれからだろ?お前が強くなれるかどうか。そんなものはお前次第だ」
そして、近右衛門はニッコリと微笑んだ。
「そうじゃぞ。木乃香や大切な人、デジモンを護れる様になりたいならば、俯く必要は無い。唯只管に、前進あるのみじゃ」
そして、レオルモンが言った。
「人もデジモンも関係無いのだ。護りたい、それだけでいい。正義や、理想を無理に掲げる必要は無い。ただ、護りたい者の為に全力を出せ」
そして、エヴァンジェリンがニッコリした。
「それならば、皆がお前を助けてくれる。何故ならな、お前には魅力がある。皆を惹きつける事が出来るな。木乃香もそうだ」
そう言って、木乃香を見た。
「二人は素晴らしい光を持っている。それは私や、爺ぃ、さよやレオルモンにも分かる。二人は唯、自分を信じて思い続けるだけでいい。護りたいと。それ
に必要な力は私が付けてやる。どんなに恐ろしい敵や災厄が降りかかっても、誰も犠牲にしないで護り切れるように。誰かを犠牲にしないといけない? そんな物は力が足りなかった者の言い訳だ。お前達は大丈夫。なにせ、世界を探しても並ぶ者無しの三強に認められてるんだぞ?私と爺ぃとルークに な」
そして、レオルモンが優しく微笑んだ。
「イルゼ、お前が望んでいるのは心の強さだ。普通の者が望むのは技や力の強さだが、お前は心の強さを欲した。それは、強くなれる者の資質と言って
もいい。私が保証しよう、お前は強くなる。それも、これは勘なのだがね…。私や、あらゆるデジモンを越える程に強くなる気がする。それも、間違った強 さではない、正しき強さだ」
「正しき…強さ?」
イルゼはレオルモンの言葉を反芻した。
「考える時だ。今はな…。只管悩め、考えろ、それが今お前が為すべき事なのだ」
レオルモンはそう言った。
そして、エヴァンジェリンが口を開いた。
「イルゼ、今すぐに強くなる必要は無いんだ。お前が力を求めるのは分かる。だがな、今は私が居る。爺ぃが居る。レオルモンもイルゼに力を貸してくれ
るのだろう?先程の口調からするとだが」
そう言いながら意地悪そうに頬を歪めた。
だが、レオルモンは不敵な笑みを浮べた。
「勿論だ。同郷の同胞を護らない理由は無い。…とは言え、さよが最優先だが、それでも手の届く限り、イルゼや木乃香、他の大切な存在を護ると誓お
う。さよも納得してくれる筈だ」
その言葉に、近右衛門は「そうじゃな」と微笑んだ。
そして、エヴァンジェリンは再び口を開く。
「今は甘えろ。私達の力を当てにしろ。お前と木乃香を助けたいと願うのは間違い無く世界最強の存在達なんだからな」
その言葉に、イルゼは小さく頷いた。
「でもさ…。俺が皆を護れるくらい強くなったら。代わりに、俺を当てにしてくれよな?」
そう、悪戯っぽく笑った。
その言葉に、エヴァンジェリンは目を丸くすると、クツクツと笑った。
「ああ、当てにさせて貰うぞ。お前達は本当に当てに出来てしまいそうな程強くなりそうだ」
その言葉に、近右衛門もクククと笑い、レオルモンも柔らかく微笑んだ。
そして、木乃香もイルゼと見詰め合って笑い合った。
そして、しばらくすると沈黙が降りた。
誰も彼もが黙したまま待ち続けた。
そして、無音の部屋の彼方から足音が僅かに聞こえた。
そして、部屋の障子が開かれた。
そして、眼を瞑っていた近右衛門が口を開いた。
「いいのかの?さよちゃん」
気遣う様に聞いた。
障子を開けたのはさよだった。
そして、さよは「うん」と頷いてイルゼ達を先程の部屋に案内した。
そこには、キリッとした表情で、それでもどこまでも慈愛に溢れた細い笑みを浮べる老女。
相坂キヨが正座していた。
そして、一同が入り、皆が正座をすると、お座りの状態のレオルモンが口を開こうとしたが、その前にキヨが首を横に振って口を開いた。
「まずは、レオモン。…いいえ、今はレオルモンだったわね?」
「はい」
キヨの視線を受け、レオルモンは真摯にキヨの瞳を見つめた。
「久しぶりね。貴方は可愛らしくなってしまったけど、元気そうで良かったわ」
キヨの言葉に、レオルモンはどう答えるべきか迷った。
「いや…その…。キヨ殿…私は!」
レオルモンは、キヨに何と言うべきか迷った。
すると、キヨはやんわりと笑った。
「レオルモン、私がこの世に残っていられる時間はもうあまりないのよ」
その言葉に、さよは俯いてしまった。
そして、レオルモンは愕然とした。
「そ…そんな…」
レオルモンにとっても、キヨの存在は特別だった。
僅か数ヶ月だったが、レオモンだったレオルモンはキヨの手伝いをしながらさよが学校から帰って来るのを待っていたのだ。
穏やかな時間だった。
闘争の連続だったそれまでの人生の中で、有り得ないほどに自身の心が温かくなっていくのを感じた。
正義の為と言いつつも、所詮は自身もデジモンなのだ。
闘いを求めなかったか?
そう、問われれば否定は出来ない。
故に、悪を挫くと言う大義名分を振り翳しながら闘いに身を投じて来た。
それを、相談した事もあった。
キヨはただ力の使い方を誤らなければ良いと言ってくれた。
そして、レオルモンに様々な事を教えてくれた。
それまで、闘い以外の知識など殆ど持たなかった彼に、お茶の入れ方、肩の揉み方、掃除の仕方。
他にも、穏やかに時間を過ごす素晴らしさを教えてくれた。
友を失い、少し自暴自棄になってしまっていた。
だが、さよやキヨと過ごす時間で、レオルモンは本当の意味での正義について考える事が出来た。
だが、それを実践出来ずにさよとキヨを引き離す結果になってしまった。
まさか、再会できるとは思っていなかったのだ。
だが、それもあまり時間が無いと言う。
レオルモンは無意識の内に瞳から涙を滴らせた。
「あらあら、貴方は大人なんだから泣いちゃおかしいわね?」
「す…すまない」
恥かしそうに俯くレオルモンに、キヨはクスクスと笑いかけた。
そして、真摯な眼差しをレオルモンに向けた。
「レオルモン、これからもさよをお願いしてもいいかしら?」
キヨの言葉に、レオルモンは確りと頷いた。
「勿論だ。私は何があってもさよを護ると誓う!!だから…キヨ殿!!」
レオルモンは泣き叫びたい衝動を振り払って叫んだ。
そして、レオルモンの気持ちを察し、キヨは満足気に頷いた。
「ええ―――安心したわ。レオルモン、さよをお願いね」
「はい!!」
そして、キヨはレオルモンの頭を撫でようとしたが、キヨの手はレオルモンに触れることが出来なかった。
少し、寂しそうな表情を浮べると、キヨは姿勢を正した。
「話はさよに聞きました。私が話せる事は全てお話します」
その言葉に、エヴァンジェリンが口を開いた。
「すまんな。早速だがいいか?」
「ええ、貴女がエヴァンジェリンちゃんね?何でも聞いてちょうだい」
エヴァンジェリンは、ちゃんを付けられるのは好きではなかったが、何故か嫌な気分にならず、話を続けた。
「矢部と言う男を知っているな?」
その言葉に、キヨは頷いて答えた。
「知っています。彼が私に会いに来たのは私が病に冒され、後は死を待つばかりとなったある日の事なの」
「病気?」
エヴァンジェリンが眉を顰めると、キヨは自分の胸を右手で覆った。
「肺にね…」
エヴァンジェリンは「そうか…」とだけ言うと、話の続きを待った。
「あの人は私にさよの事を聞いたわ。さよが死んだと思ってたみたい。でも、真摯にさよの事を聞く彼に、私は話したのよ。さよの事、封印の事。彼、怒っ
たわ。そして、封印に付いて調査を始めたの。丁度、麻帆良の空襲を受けた傷跡が復旧し始めた頃だったわ。彼は封印について解き明かした。そして、 時が来たら…さよを開放される様に細工をしたの。でも、一つだけ問題があった」
「問題?」
近右衛門が口を開いた。
すると、キヨは眼を僅かに見開くと言った。
「貴方は…?」
キヨが聞くと、近右衛門が答えた。
「近衛近右衛門と申します」
すると、キヨは口に手を当てて「まぁ」と驚いた。
「随分と若いのねぇ。さよと同い年と聞いたのだけど…」
その言葉に、近右衛門は頭を掻きながら言った。
「ピエモンを知っていますな?」
近右衛門の言葉に、キヨは「ええ」と頷いた。
「彼奴に対抗する為に、昔手に入れた仙薬を飲みましてな」
その言葉に、エヴァンジェリンが反応した。
「な、なに!?お前のは彩香とか言うのが作った薬だった筈だぞ!!」
その言葉に、近右衛門は「うむ」と答えた。
「そうじゃ、彩香が作り上げたのは仙薬を元にした薬でな。賢者の石の力を加え、強力じゃが、一瞬にして仙人に至れる薬だったのじゃよ」
「仙人?」
イルゼが聞くと。エヴァンジェリンが答えた。
「人であって人でない、堕落の魔法とは違う人の上位存在の事だ」
イルゼと木乃香は驚いて近右衛門を見たが、近右衛門は首を横に振ってキヨに話を進めるように頼んだ。
「して、問題とは?」
近右衛門に言われ、キヨは僅かに首を傾げながら口を開いた。
「え?ええ、さよの封印の解除の術式には、強力な力が必要だったのよ。人柱を使う程の封印式、それを開放するにはそれなりの力が必要だった。その
為に、私の記憶を代償にしたの」
「記憶を!?」
エヴァンジェリンは眼を見張った。
そして、「たしかに…」と何処か納得したように言った。
「おばあちゃん、どういう事なん?」
木乃香の質問に、エヴァンジェリンは答えた。
「いいか?記憶と言うのは強力な力を持つのさ。何せ、人の思いやそれまでの生きた記録だからな。詳しい説明は今度の授業で話してやるが、確かに、
人一人を解放するには記憶を使うのが早いかもしれん…しかし」
エヴァンジェリンはキヨを見た。
「ならば、何故お前の記憶は戻ったのだ?記憶を代償にしたならば、その記憶は消滅する筈だが?」
エヴァンジェリンの問いに、キヨは答えた。
「矢部さんと私はさよを解放したかった。だから、私が言ったのよ。私の記憶を使って欲しいと。後もう何年も生きられる体じゃなかったからね。だけど、
矢部さんは一つだけ細工をしてくれた…」
「細工とは?」
近右衛門が聞いた。
「私がさよに化け、封印開放の為のヒントとなりながら、長い年月を記憶して、それを代用出来る様にしたの」
その言葉に、エヴァンジェリンは「そう言う事か…」と言った。
「お前の封印解放の術式に埋め込んでいた記憶の代わりに、お前が霊体となって彷徨っていた間の記憶を使えるようにしてあったのだな?」
エヴァンジェリンの言葉に、キヨは頷いた。
「それから、矢部さんにレオルモンから預かったデジタマを預けたの」
「オーガモンのデジタマを!?」
レオルモンはハッとして聞いた。
「ええ、私では…護れないと思って。矢部さんは信用できると思ったのよ。あの人には奥さんが居て、子供も出来て。ティファニーさん…矢部さんの奥さん
とも会った事があるわ。ティファニー・エバンスさん。よく、うちに来てくれたのよ。小さな子を連れて。矢部さんは調査を頑張ってくれて、確か…アリスちゃ んだったかしら?ティファニーさんと一緒に私を元気付けてくれたのよ。それにね、デジタマを預けたのにはもう一つ理由があるの」
「理由?」
レオルモンが聞いた。
「ええ、アリスちゃんと一緒に居ると、デジタマが時々暖かい光を放ったのよ。もしかしたら、あの子があのデジタマのパートナーなのかもって思ったのよ」
その言葉に、レオルモンは驚きに眼を見張った。
そして、イルゼは頭の中で何かが蠢く様な感触を覚えた。
それは、謎解きの時の感触だった。
そして、近右衛門が残念そうに言った。
「残念じゃが…。ティファニーと二人の子は…死んでおる」
その言葉に、キヨは眼を見開いた。
「なんですって!?」
そして、レオルモンも愕然となった。
「キヨ殿…、矢部が術式を校舎に刻んだのは何時頃でしたか?彼奴がティファニーと結婚したのは1943年じゃった。それよりも後の筈ですが」
キヨはその言葉に、呆然としながらも頷いた。
「え、ええ…。44年に矢部さんとティファニーさんが来たの。戦争の終結直前だったからよく覚えているわ。外国人があの時代の日本に居ても大丈夫なの
かって心配したもの。翌年にアリスちゃんが生まれてね、矢部さん自身は世界中を回って封印について調べてくれたの。そして、一年が経って、矢部さん がさよの封印の術式を解明してくれた。それから、一年掛けて、沢山の細工をしたのよ…」
そこまで聞くと、近右衛門は頷いた。
そして、近右衛門が語り出したのは、矢部の家族を襲った悲劇だった。
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